<ヤクルト1-2横浜>◇12日◇神宮

 予定時間を超えて観戦を続けられた皇太子ご一家に、オバQが野球の面白さをアピールした。1-1の9回無死一塁。打席に向かう前の横浜細山田武史捕手(23)に、三塁側ベンチで田代富雄監督代行(55)がささやいた。「石川が走る。バントの空振りをしろ」。一塁走者の石川が初球から走った。バットの芯を右手で持ったままの細山田は、ヤクルト林昌勇の球筋を捕手の視線から妨げた。狙った空振りは、二盗をアシストする大きな小技だった。

 新人捕手はカウント2-2からスリーバントにも成功した。「あの場面で失敗したら『死ぬ』と思った」。1死三塁で藤田が防御率0・00だった守護神から右犠飛を放ち、決勝点をもぎ取った。田代代行も「とにかくできることをキッチリやろうと。打つことは大変だけど、送りバントとかチーム打撃。それが(交流戦明けの)阪神戦からできている」とうなずいた。

 9回、先頭の石川には「一塁に出たら初球からいっていい」と二盗を指示。細山田の空振り指令に続き、藤田には「球の上っ面をひっぱたけ」と耳元に残し、スクイズを頭に置く相手の裏をかいた。1点を追う8回には一塁走者の吉村が二盗する雰囲気をまき散らす。五十嵐の制球を乱す隠れた機動力だった。

 豪快さだけが逆転の「オバQ野球」ではない。敵将のヤクルト高田監督も細山田のアシスト空振りに「相手が勝負をかけたということ。あれはスチール」と警戒を越える攻撃だったことを認めた。田代監督代行は台覧試合に勝ち「接戦だったので、予定を変更してまで見ようというゲームができてよかった」。最下位からの大脱出がここから始まる。【今井貴久】

 [2009年7月13日8時14分

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