大野よ、我慢しろ-。中日吉見一起投手(26)が左肩故障を抱え、キャンプ2軍スタートとなる大野雄大投手(22=佛教大)に「ドラフト1位の心得」を説いた。5年前、同じく右肘故障を抱えながら05年希望枠で入団した吉見は周囲のペースに惑わされず、長い目で野球人生を見る必要があると強調した。

 05年希望枠入団の吉見が、ドラフト1位大野と初対面した。前日の合同自主トレ初日は吉見が冒頭で引き揚げたため、ほとんど接点はなかったが、この日は同じグループでノックを受けるなど、みっちり2時間以上、一緒に練習した。

 「できれば話かけたいと思っていたんですが、なかなか、そういう感じにならなくて…」

 大野は練習後、こう言って肩を落とした。自分と同じように右肘故障を抱えながら入団し、その後、エース格へと成長を遂げた吉見に尊敬の念を抱いている。ただ、新人ならではの緊張感からなかなか話しかけられなかった。自分はまだ思い切りボールを投げられず、2軍スタートが決定的なだけに、よけいに話を聞きたかった。

 それでも吉見は、同じ境遇で入団してきた大野を気にかけ、自らの経験を踏まえたメッセージを送った。

 「もちろん、聞かれればいろいろ話させてもらいますよ。焦りもあるし、周囲からもそういう目で見られる。他の選手もバンバン投げますから。でも、こう言っては何ですが、彼はもう開幕は無理なわけですよね。だから長い目で自分を見てほしい。自分のペースを貫いてほしい」

 5年前の吉見は、同じ新人選手や、すでに入団しているライバルたちが次々とブルペン入りするのを見ているしかなかった。希望枠右腕に対する期待も背負っていた。それでも、投げたい衝動を必死に抑え、自分の故障と向き合った。

 プロ初登板は9月10日、広島戦だった。結局、1年目は4試合で1勝0敗だったが、3年目の08年に先発ローテ入りし、2ケタ勝利。昨季まで3年連続2ケタ勝利を挙げて、先発陣の柱にまで成長した。長い目で野球人生を見ていた吉見は見事に故障を乗り越えて「ドラフト1位」の期待に応えてみせた。

 同世代のライバル日本ハムの斎藤や巨人沢村が1軍キャンプと騒がれている。大野は「投げたいですけど…、治してからです」と唇をかんだ。吉見というお手本の背中を見ながら、自分のペースで進んでいくしかない。【鈴木忠平】

 [2011年1月17日10時19分

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