黙々と投げ続け、ジャパニーズドリームを成し遂げた。巨人山口鉄也投手(29)が10日、東京・大手町の球団事務所で契約更改交渉を行い、1億2000万円増の2億4000万円(推定)でサインした。開幕から無類の安定感を誇り、5年連続60試合登板の日本記録を樹立。育成1期生入団から7年で、押しも押されもせぬセットアッパーに成長した。240万円からスタートした年俸は、実に100倍にはね上がった。

 未開の地を切り開いた山口に、当然の評価が下された。5年続けての60試合登板。「勤続疲労」という中継ぎ投手の固定観念を打ち破った。球団は2億4000万円という高値を付けた。達成感を問われて「それが一番。よくやったと思います」としみじみ言った。簡単な言葉でも、山口が言うから重みがあった。

 誰にもつかまらないまま12年シーズンを投げ通した。開幕から24戦連続無失点のセ・リーグタイ記録を達成。5月23日西武戦では9回無死満塁をしのいだ。捕手の阿部を「優勝する年には奇跡が起きる。ぐっさん(山口)のピッチングもそうだ」と感動させ「MVPはぐっさん」と言わしめた。そして11月3日、日本シリーズ第6戦。「あの最終回が、一番印象に残っている」と振り返った。1点差の9回を任され、日本一の胴上げ投手に上り詰めた。

 山口

 今年だけじゃない。5年連続を評価していただいた。1年間1軍にいたこと。試合で投げない時も肩をつくったこと。その回数まで計算し、把握していただいた。ありがたい。

 数字に表れない下支えにこそ、苦労と価値があると知っている。球団の見立てに感謝を並べるのが、山口らしかった。

 「あの人」にも感謝している。2月のキャンプで「体が重いなぁ」と例年と違う自分を悟った。疲労もピーク、のはずだった2月17日。長嶋茂雄終身名誉監督が宮崎に来た。ブルペンの山口に注目し、ネットに身を委ね見つめた。投球を終えると「OK!

 最高だ!」と、とてつもない大声で褒めてもらった。

 山口

 あれで「自分は今年も大丈夫なんだ」と吹っ切れた。すごく緊張したけど、不思議と力が入って強いボールがいった。うれしかったですね。

 前半戦最後の9連戦中には「人間に、限界ってあるんでしょうか」と話している。育成から鍛え上げた肉体にメンタルも積み重ねて一気に駆け抜けてみせた。

 年が明ければ、でっかい舞台が待っている。3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表候補に選ばれている。侍ジャパンでもブルペンの「番人」として重責を担うことは確実だ。「左には絶対に打たれないところをアピールして代表に入りたい。今まで通りの慣れた場所。6、7、8回を頑張りたい」と語った。育成1期生が、敵味方なく日本球界をうならせ、世界の頂点を極めていく。胸をすく筋書きがまだまだ続く。【宮下敬至】

 ◆山口鉄也(やまぐち・てつや)1983年(昭58)11月11日、神奈川県生まれ。横浜商を卒業後に渡米。米大リーグDバックス傘下ルーキー級に所属し、3年間で7勝を記録。入団テストを経て05年育成ドラフト1巡目で巨人入り。07年4月に支配下選手登録される。08年に新人王、09、12年に最優秀中継ぎのタイトルを獲得。184センチ、86キロ。左投げ左打ち。

 ◆年俸100倍メモ

 入団時に比べ、年俸が100倍以上になった選手は落合博満やイチローらがいる。巨人生え抜きでは、斎藤雅樹が1年目の300万円から15年目の97年には3億3000万円と、110倍に増えた。イチローは入団7年目の98年にちょうど100倍の4億3000万円となり、日本最終年の00年には123倍の5億3000万円だった。