ロッテ成瀬善久投手(29)が、今季取得した国内FA(フリーエージェント)権を行使することが10月31日、分かった。親しい関係者には意思を明かしており、近日中に会見を開く予定。ロッテは「宣言残留」を認めておらず、11年間在籍したチームに別れを告げることとなる。ヤクルト、阪神などが獲得に動くとみられ、今季のFA補強の目玉になる可能性が出てきた。

 チームへの愛情を成瀬は貫けなかった。親しい関係者には「もう決めている」と話し、権利の行使をほのめかしたという。エースとして、選手会長として、チームをけん引してきた左腕にとって、愛着のあるチームを離れるという、苦渋の選択。しかし、今の成瀬には他に道がなかった。

 そもそもは残留を希望していた。「このチームをどうしたら優勝できるチームにできるのか」と真剣に考えていた。だが、球団との2度の交渉が、皮肉にも成瀬の考えを変えさせた。「残ってほしいけど、君の得た権利だから」という言葉は「出ていってくれても構わない」と言っているようにしか聞こえなかった。

 球団からの条件は単年契約のダウン提示とみられている。エースとして9勝11敗の今季成績では、好条件があり得ないのは当然。しかし、金銭面で口説けなくても、5年連続開幕投手を務めるなどエースとしての働きに敬意を払い、早くから交渉するなど、別のやり方もあったはず。だが、最初の残留交渉はシーズン終了の2週間後。さらに交渉役の林信平球団本部長が台湾遠征に同行してしまい、最後の交渉の機会がなくなったことも、成瀬の背中を押したものとみられる。

 ここ2年は低迷しているがシーズン200投球回を2度もクリアした、経験豊富な左腕。代わりの人材を探すのは至難の業だ。また「生え抜きのエースを放出することは、球団の体質を疑われる」と危惧する球団関係者もいる。伊東監督の3年目を迎えるロッテ。大きな穴を埋めなければならなくなった。

 ◆成瀬善久(なるせ・よしひさ)1985年(昭60)10月13日、栃木県生まれ。横浜高で03年センバツ準優勝。同年ドラフト6巡目でロッテ入団。07年に16勝1敗、防御率1・82で最優秀投手(最高勝率)最優秀防御率。08年北京五輪代表。球宴出場3度。180センチ、87キロ。左投げ左打ち。今年6月に結婚。今季推定年俸1億4400万円。

 ◆成瀬をめぐる各球団の動き

 ヤクルトと阪神が成瀬のFA権行使に備えて、獲得に乗り出す準備をしている。近年、先発の駒不足に泣かされてきたヤクルトは、仮に争奪戦になったとしても、本社から資金面でバックアップしてもらう確約をすでに得ている。成瀬がFA宣言をすれば契約年数などの条件面の方針を速やかに固め、獲得の意思を表明するとみられる。また、阪神はオリックス金子の獲得に向けて準備をしていたが、メジャー移籍の可能性が浮上したことで方向転換した。成瀬が対巨人戦6勝2敗、防御率2・50と、巨人キラーでもあることも好材料。阪神の幹部は「実績も十分だし、まだ若い。うちの補強ポイントが投手であるのは明らか」と、日本ハム宮西とともにマークしていることを明かした。