<WBC:日本5-3ブラジル>◇2日◇1次ラウンドA組◇ヤフオクドーム

 日本が土壇場で逆転し、白星発進した。3-3で迎えた8回1死満塁、右膝を痛めて先発を外れた阿部慎之助捕手(33)が代打で登場。痛烈なライナーを放って二塁手のグラブをはじき、勝ち越した。3連覇への重圧か、1次ラウンドA組の世界ランク最下位20位のブラジルに大苦戦。敗れれば2次ラウンド進出が厳しくなる一戦だったが、追い詰められた8回に何とか4安打を集中して3点を挙げ逆転した。今日3日は中国と対戦する。

 ケガで先発を外れても、不調で苦しんでいても、やっぱり、最高の舞台が用意された。同点に追いついてなおも満塁の好機で代打を告げられた阿部は、重圧など少しも感じなかった。心地よい緊張感。チャンスに強い男の真骨頂だった。

 阿部

 自分の不注意で(故障して)迷惑をかけたのに…。本当に申し訳ない気持ちがあった。最高の場面で使ってくれたな、と思いながら打席に入りました。重圧というよりも、精神的には少し余裕がありましたね。

 甘い初球に迷わずバットが出た。ライナーで二塁手のグラブをはじく打球。併殺なら、チームのムードは一気にしぼんでしまう。阿部は、右膝を痛めていることなど忘れて、がむしゃらに一塁へ走った。併殺崩れの間に、井端が決勝のホームを踏んだ。手負いの主将が見せた激走。「足は大丈夫か?」と心配するベンチに、笑顔でオーケーのサインを作った。その裏からマスクもかぶり、8回、9回を無失点で締めくくった。

 大会直前は重圧に押しつぶされそうだった。「トップの位置が決まらないんです」と、打撃不振を脱するきっかけは見えない。追い打ちをかけるように、右膝を痛めた。大会が迫るにつれ、侍ジャパンの命運を託された主将は、弱気になった。

 欠場した大会前最後の強化試合を、チーム宿舎の自室で見た。阿部不在の危機に、目の色を変えて奮起するチームメートの姿に、胸が熱くなった。チームのスタッフも、懸命の治療を施してくれた。気が付けば、枕元に置いてあるバットを振っていた。「たくさんの方が助けてくれた。感謝の思いしかない」。1人で背負い込むのはやめた。

 尊敬する先輩の言葉にも救われた。大会前日、関係者を通じて、ニューヨークにいる松井秀喜氏からメッセージが届いた。「大変だろうけど、慎之助なら絶対にやれる。頑張れ!」。巨人の新旧4番として、絆は深い。「松井さんのような4番になりたい」。その思いが、この10年間の成長の糧となった。阿部はすぐに、その関係者に“返信メッセージ”を託した。

 阿部

 絶対にアメリカの決勝ラウンドに行くんで、その時は、松井さんもニューヨークからサンフランシスコへ応援に来てください!

 もう、迷いはなくなった。この日は、普段通りの阿部だった。試合前に「大丈夫。盗塁だってできるよ」と宣言した通り、8回には三盗のスタートも切った。試合後のお立ち台では「最高です」の代わりに「(膝は)完璧です!」と笑顔で絶叫して、ファンを喜ばせた。「明日も先発と言われれば行きますよ」と、力強い言葉を残して、球場を去った。【広瀬雷太】