<WBC:日本5-3ブラジル>◇2日◇1次ラウンドA組◇ヤフオクドーム

 井端弘和内野手(37)は追い詰められた状況でも、己を忘れなかった。8回無死一塁、ネクストバッターズサークルで待つ目の前で、4番の糸井が送りバント。同点の走者が得点圏に進み、出番が回ってくる。とてつもない重圧に「正直、嫌だったです」と素直な胸の内を話したが、戦うための武器は、静かに研ぎ澄ませていた。

 狙いはひとつ。「逆方向に強い打球を打つ」。ここ一番での自分の得意技を信じた。1ボールからの2球目。右方向に流した強い打球が一、二塁間を抜ける。劣勢だった試合を、振り出しに戻す同点タイムリーになった。

 強気な姿勢と謙虚なコメント。「阿部抜きで第1ラウンドを突破できないようじゃ、3連覇なんて狙えない」とチームを鼓舞する一方、自らの立場は理解している。「ボクがいいところで出るようじゃダメでしょう。先発とか言われていないし、開幕という感じはしないですね」と話していた。試合前日の朝には阿部の部屋をノックし「大丈夫?」とひと言。思わぬ気遣いに阿部も「突然、朝でビックリした。でも、ああいう人がいてくれて助かります」と感謝した。

 やってのけた仕事は、初めての体験だった。「打球が抜けた後は、覚えていない。ガッツポーズしたのも初めてだし、一塁で覚えていないのも初めて。不思議な経験でした」と静かに話した。先頭打者が出塁した時点で、井端の代打を決めていた山本監督も「ここまで打席数も少なかった中(実戦は3打数1安打)で、自分のバッティングをしっかりとやってくれた。右打ちのうまさが出たね」と絶賛した。期待され、準備する機会をもらいながら力を発揮できない若侍たちに、真の侍の姿を、ベテランが見せつけた。【小島信行】