地方のファンの反応は、期待の高さをよく表している。そう思った。6月17日から3日間、田子ノ浦部屋の合宿が行われた香川・観音寺市の大野原八幡神社。大関稀勢の里(29)は、初めて訪れた地で「これでもか」というくらいの声援を浴びていた。力士を見るのも珍しい地方で、地元住民からかけられた言葉は「横綱になって!」「白鵬を転がせ!」などと、実にストレート。夏場所後に本紙が行った大相撲総選挙では堂々の5連覇を果たすなど、全国の相撲ファンも思いは同じ。だが、目の前で直接言われるのはまた違うだろう。合宿前日の歓迎会では「横綱になったら、大野原で土俵入りしてくれますか?」とも問われ、さすがの大関も苦笑いだった。

 期待は、合宿中のいたるところに形となって現れた。旧大野原町の人口は、約1万2000人。稽古が行われた3日間は1500人、2000人、2000人が訪れた。県外からの来客者もいたが、地区の人口の約半数に匹敵する人たちが駆けつけたことになる。さらに、秋の例大祭以外では初めて担がれた「ちょうさ」という太鼓台も登場。14年に1度、1番スタートで祭りの主役を張るという御利益つきだ。約250年前に周囲の土を取り除いて造られたという「生(いき)土俵」からも力をもらい、大関は「ありがたいです」と感謝しきりだった。

 綱とりのためにも、どうしても欲しい初優勝。あまり先のことを口にしない大関だが、歓迎会での質問には「皆さんあっての自分。なんとか恩返しできるように頑張りたい」と力強く答えた。いよいよ、勝負の7月。名古屋の地で、稀勢の里はどのような形で応えてくれるのか。【桑原亮】