<Dynamite!!>◇12月31日◇さいたまスーパーアリーナ

 吉田秀彦(40=吉田道場)が、石井慧(23=アイダッシュ)に経験の差を見せつけて、無傷で金メダリスト対決に快勝した。初回に右強打でリングに両手をつかせ、2回にひざ蹴りを股間(こかん)に浴びて、約8分間も試合が中断、さらに同回に左太もも裏を肉離れするなどアクシデントに見舞われたが、再開後も終始ペースを掌握。最後まで石井の有効打を受けることなく、3-0の判定勝ちを収めた。08年6月のスミス戦以来、約1年半ぶりの白星を挙げた吉田は試合後、「たぶん次の試合が決まれば最後になる」と、次戦で引退の意向を表明した。

 吉田は自分から攻めなかった。開始から石井の出方をうかがった。「(相手に)合わせるような形でやろうと思っていた」。石井がパンチで攻めてくると、パンチで応じた。1分半すぎ、強打をことごとく見切ると、右フックを頭部にたたき込んだ。両手をついてぐらつく石井に、間髪入れずに右アッパーを連発。初回から相手を流血させた。

 2回にパンチを空振りした際に左太もも裏が肉離れ。さらに金的にひざ蹴りを受けてもん絶。股間(こかん)をガードするファウルカップがへこむほどの衝撃で、8分余りも脂汗を流し続けた。レフェリーストップも促されたが「痛かった。でもお客さんを見ていると、ここでやめるわけにはいかなかった」。苦境の中、試合続行後もペースを握り続け、最後まで石井に有効打を打たせなかった。

 6月に戦極参戦を表明した石井のデビュー戦の相手に指名されることは想定していた。対戦を打診される前に「石井選手ですよね。それが総合格闘技のためになりますよね」と答えたという。同じ柔道金メダリストという話題性だけではなく、石井を総合格闘界の宝と期待しているからこそ引き受けた。

 現在40歳。02年に総合格闘技に転向する以前は、柔道家、大手の新日鉄の社会人、名門明大の柔道部監督という「三足のわらじ」を履いていた。しかし、安定した生活も指導者としての将来も約束されている中で、あえて未知の世界に飛び込んだ。「五輪金メダリスト」の看板がまるで通じない世界で生きてきた。だからこそ石井には自らの拳で、それを分かってもらいたかった。

 試合後は石井と握手を交わした。抱き合い「ありがとう」と伝えた。「(石井は)まあタフだなと。僕もそうだったけど、初めて四角いリングに立つと緊張する。経験を積んでいけばいい選手になると感じた」とエールを送った。一方で自らについては「たぶん次の試合が決まれば、最後になるんじゃないかなと思う」と次戦での引退の意向を淡々と話した。その表情には、大一番を戦い終えた充実感があふれていた。【高田文太】