今年の漢字は何ですか? 玉鷲に聞くと「幸せ」と即答した。色紙を渡すと、スマホで漢字を変換し、画面を見ながら「幸」と書き込んだ。

 なぜ幸せなんですか?

「だって、幸せだったから。来年も幸せでいられるようにですね」

玉鷲の今年の漢字「幸」
玉鷲の今年の漢字「幸」

 玉鷲にとって今年は、節目の年になった。初場所で2桁勝利を挙げ、春場所は小結に昇進した。入門から66場所かけての新三役は、外国出身力士としては、最も遅い昇進だった。

 モンゴルの父に電話すると、喜んでくれた。直後、声が聞こえなくなった。おそらく、泣いていたからだった。幸せな瞬間だった。

 夏場所9日目には日馬富士を破って、初めての金星を挙げた。これが10度目の横綱戦だった。この時、30歳6カ月2日。外国人力士としては、最も遅い初金星だった。これもまた、幸せだった。

 遅咲き=苦労人のように見られるが、玉鷲はちょっと違う。ひょうひょうとしていて、自由人のような雰囲気を漂わせる。一方で、白鵬を頂点とするモンゴル人のコミュニティーには必要以上に入り込まず、土俵に情が入る余地を自ら断つ。

 今年1年、初めて前頭10枚目以下に落ちないまま相撲を取りきった。もっと注目されるべき力士だと思う。【佐々木一郎】