<第21回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞>

 SMAP中居正広(36)が映画「私は貝になりたい」で主演男優賞を獲得した。第21回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)が3日、決定した。中居は丸刈り、減量をいとわない役作りから大がかりな宣伝まで完遂。作品を世間に浸透させ、公開わずかでの異例の受賞となった。28日に東京・紀尾井町のホテルニューオータニで行われる授賞式で、裕次郎夫人のまき子さんから賞金300万円が贈られる。

 先月22日の公開までに受けた取材は403媒体に上った。異例の多さだ。思い出を振り返ってもらうと「多すぎて覚えていないんですよ」。そう言いながら、実はどの取材にも丁寧に臨んだ。撮影中に感じたことを書いたメモを持ち歩いた。「たとえ同じ質問でも、同じ答えでは申し訳ないですから」。しわくちゃになったメモは今もバッグに忍ばせている。

 中居は自分が主演を張り、精力的に宣伝活動をこなす意義を誰よりも理解している。「若い人や女性に映画館に足を運んでもらうきっかけになれば、という責任感はありますね」。一方、演技では常に逆を心掛けた。「戦争にヒーローはいない。主役にあこがれを抱くような映画じゃ、家族愛や反戦をリアルに描けない。格好良さはいらない。とにかく、サマにならないように心掛けました」。バラエティーの明るいノリを思い出せないほど、スクリーンでは中居色を消した。

 徹底した宣伝活動だからこそ、反響もさまざま。Jリーグ試合会場に出向いた際はブーイングを受けた。「慣れてるわけじゃないけど、PRをやらせてもらうわけですから」。不満を漏らすことは一切なかった。

 何度も「作品のメッセージが伝われば、ボクの評価はどうでもいい」と繰り返した。「『家に帰って奥さんを抱きしめました』と聞いた時、映画の意味、つまり反戦や家族愛が伝わったんだと思いましたね」。

 映画は「いい夫婦の日」の11月22日に公開。興行収入30億円のヒットを見込む順調な滑り出しだ。中居の精力的な宣伝活動も手伝い、戦争を題材にした作品には珍しく、幅広い世代が映画館に足を運んでいるという。

 観客に家族愛を思い起こさせただけでなく、中居自身にも今までにない感情が芽生えた。3兄弟の末っ子。幼いころ、両親と兄2人の家族5人で6畳と4畳2間で暮らしていた。狭く感じるからと2間を区切るふすまは、常時開けっ放し。常に家族と一緒だった。「兄貴は結婚して子供もいるから不可能だけど、また5人で暮らしてみたい。恋しい部分もあるのかな」。

 映画は初主演作「模倣犯」以来6年ぶり。今回が5本目と出演が少なかった映画では、賞に縁がなかった。主演男優賞受賞に「うれしいですけど、お芝居で評価されるなんてヤバイですよ。野菜いためでキャベツだけ評価されるより、全体的に評価される方がうれしいでしょう」と照れた。「演技に苦手意識があって自信がないから一生懸命やらないと」。言葉通り、丸刈り、減量の役作りから鬼気迫る演技、宣伝まですべて徹底。インパクトを残し続けた結果が、公開わずかでの異例の受賞につながった。

 28日の授賞式では、昨年の主演男優賞の木村拓哉(36)からステージ上で表彰盾が贈られる。「恥ずかしいじゃないですか !

 プロから素人に贈られるみたいで」。どこまでも真摯(しんし)で謙虚。だからこそ、役柄もリアルに感じられる。【近藤由美子】