映像化不可能と言われた大作がついに動きだす。航空会社を舞台に、会社と闘い続けた男を描いた山崎豊子さん原作の長編小説「沈まぬ太陽」が、渡辺謙(49)主演で映画化されることが8日、分かった。これまで何度もドラマ化、映画化の話が持ち上がったが、世界中での撮影が必須という大スケールの物語だけに、何度も頓挫してきた。メガホンは「ホワイトアウト」で知られる若松節朗監督が取る。総製作費は20億円。来年1月にイラン・テヘランでクランクインする。

 渡辺は「いよいよ『沈まぬ太陽』という大作に取り組むことになりました。これまで何人もの製作者が挑み、果たし得なかった作品と聞いています。全身でこの大作に挑み、しっかり体感したい」とコメントした。国民航空(NAL)社員として、空の安全を求め闘った主人公の恩地元を演じられるのは渡辺しかいないとキャスティングされただけに、意気込みは大きい。すでに、年明けの撮影に向け、肝炎やマラリアなどの予防接種を受けるなどして準備を進めている。

 渡辺が言うように、いくつもの企画、監督、俳優が挙がっては消えた。若松監督は「魔物です。手を付けてみて、多くの人がこの山を登れなかった理由が分かりました」と話した。文庫本で5冊の長編。主人公は報復人事として、カラチ、テヘラン、ナイロビと海外を転々とさせられるため、海外ロケが必須。さらに、85年の日航ジャンボ機墜落事故が重要な要素で、壮大かつ慎重に描かなければならず、予算も膨大になる。今回は角川映画と東宝の共同製作で、総製作費は、日本映画としては最大規模の20億円になる。

 壁はまだある。原作で描かれる国民航空は日本航空(JAL)、主人公の恩地も実際の社員がモデル。JALの反発は強かった。94年に週刊新潮で連載が始まったが、機内では同誌を取り扱わないなどの措置を取った。映像化された場合にはさらに反発を招く可能性も高い。

 しかし、原作者の山崎さんは「映像化なしには死ねない。大企業のあり方を描いてほしい」と製作陣を後押しした。若松監督も「逃げずにやりたい」と、妥協はしない。JALの鶴丸マークを思わせる、桜のマークの機体も登場するという。ただ、いたずらに大企業vsサラリーマンをあおるのではなく、家族や昭和に生きた1人の男を丁寧に描くつもりだ。

 上映時間は「3時間20分くらいになるかも。休憩を挟むかどうか」(若松監督)。同期社員の行天四郎や堂本社長、国見会長ら、主要登場人物のキャスティングは今後明らかになる。映画ファンが待ち望んだ大作が動きだした。来年秋公開。