アニメ映画「君の名は。」が興行収入100億円を突破し、作品を手がけた新海誠監督(43)がこのほど、日刊スポーツのインタビューに応じた。14年の監督生活で初めて、自分で劇場へ作品を見に行き、作品の認知度を実感。大ヒットにも謙虚さや自信を失うことはなく、「遠くないうちにもう1本、今回のように楽しんでもらえる作品を作りたい」と意気込んだ。

 作品は8月26日に公開され、28日間で100億円を突破した。アニメ映画の大台は、スタジオジブリ作品以外では初めて。そんな快挙にも、当の新海監督は浮足立つことなく、現状を冷静に分析した。

 「自分の人生ではない気がします。ヒット作を作りたいと望んだこともなかったし、作ると想像したこともなかったですね」

 東京の男子高校生・滝と、田舎の女子高生・三葉の心と体が入れ替わる話を軸に、彗星(すいせい)落下事故を絡めた切ないラブストーリー。中高生を中心にリピーターが続出している。

 「口コミで広がったという速度、(動員)人数ですし、若い人を中心に『こういうものを見たい』という飢餓感があったのでは。そのタイミングでこの作品を差し出せたというのが、一番の要因だと思う」

 監督人生14年で初めて、自分の作品を劇場で見た。どう受け入れられるのかを、耳と肌で実感したという。

 「今までは、観客の反応を聞くのが怖いという気持ちだった。同じ場にいる人から『今イチだったよね』と言われるのは嫌ですから。でも今回は平気だという自信があった。終わった後、後ろの席の男の子たちが『やべえ、明日も来なきゃ』って言ったんです。『楽しんでくれていたんだ』と幸せな気分になりました。ようやくちゃんと劇場で楽しんでもらえる映像を作れたんだなと。やっとスタートラインに立った気分です」

 公開から1カ月、取材などでいまだに多忙な日々を送る。顔も知られてきたが、劇場では声を掛けられることはなかった。

 「ショックでした(笑い)。と同時に、うれしくもありました。今までの作品なら、新海誠を知って見に来る方が多かっただろうから、声を掛けられていたかもしれない。でも今回は、『君の名は。』という作品を見に来てくれた人がたくさんいたということ。世の中にあるエンターテインメントの1つに選んでくれたわけですから」

 「バケモノの子」の細田守監督とともに、今後のアニメ界の中心的存在になると期待されているが、本人はいたって謙虚だ。

 「引っ張る気持ちですか? 一切ないです(笑い)。ジブリさんや細田監督とは、積み上げてきた実績が違いすぎます。今回のことが2度、3度できるとは思わないし、何を言っても今は『空手形』だと思うんです。ただ、他の人にできない作品を出していきたいという強い気持ちはあります。遠くないうちにもう1本、今回のように楽しんでもらえる作品を作りたい。まだぼんやりとした『種の種』のような状態で、お話しできる段階にはないですけどね」。【森本隆】

 ◆新海誠(しんかい・まこと)1973年(昭48)2月9日、長野県生まれ。中大卒業後、ゲーム会社の日本ファルコムに入社。00年に退社し、映像作品制作を本格的に始める。02年「ほしのこえ」で新世紀東京国際アニメフェア21(公募部門)で優秀賞を受賞。07年、短編連作アニメ「秒速5センチメートル」が世界的に評価された。映画のほか大成建設、Z会などのテレビCMも手がける。