サッカーのピッチ内には目と目の会話が存在する。12日の「甲府-川崎F」(中銀スタ)で、川崎FはMF中村憲剛(34)とDF谷口彰悟(24)の「目の会話」で勝ち越しゴールを呼び込んだ。そのシーンを振り返ってみたい。

 1-1で迎えた後半21分だった。川崎Fはゴール正面25メートルの絶好の位置でFKを獲得した。キッカーはMF中村。だれもが直接、中村がゴールに蹴りこむものだと思っていた。谷口は話す。「壁の枚数が多くて、相手は直接(ゴールを)狙ってくるという対応だった。僕がいたファーが“どフリー”で。これ、いけるなと思って憲剛さん見てたら、憲剛さんもこっちを見た。あっ、来るなと」。

 もちろん、中村も同じことを考えていた。谷口の立ち位置で数的優位ができていることを察知し、谷口に目線を送っていた。野球やラグビーのフィールドでは暗号やサインが飛び交うが、サッカーにはそれがない。目での以心伝心だけが頼りだった。

 中村は谷口をめがけ、フワリとした浮き球を送った。虚をつかれた相手守備陣は一瞬、足が止まった。「絶対に来ると思って、(ボールが)来い来いと準備をしていた」という谷口は、抜けだして中村の浮き球を受けると、ゴール前に走り込んだMF田坂、FW小林を目がけ折り返した。田坂が体ごと飛び込み、勝ち越しゴール。ちなみに、このプレーは練習でやったことがないアドリブだったというから驚きだ。

 試合後、甲府のクラブ幹部が「あれは、中村が(ゴールに)蹴ってくると思うよなあ…」と悔しがっていた。相手の隙を見逃さない中村と谷口の戦術眼と、練習せずとも即席で対応するスキルが呼び込んだ得点だった。

 各クラブによって方針は違うが、セットプレーや紅白戦の練習の際、観客をシャットアウトし非公開にするケースがある。戦術の漏えいを防ぐためだろう。かつて、あるクラブのスタッフが「実は練習を公開しようが、成績にはさほど関係ない。弱いチームほど非公開が多いんですよ」とこっそり話していたことを思い出す。ちなみに、川崎Fは練習環境から非公開はない。公開しても、試合で「練習でやったことがないプレー」が飛び出て得点するのだから、やはり練習の「公開」「非公開」はさほど関係ないのかもしれない。【岩田千代巳】


 ◆岩田千代巳(いわた・ちよみ)1972年(昭47)、名古屋市生まれ。菊里高、お茶の水女子大を経て95年、入社。主に文化社会部で芸能、音楽を担当。11年11月、静岡支局に異動し初のスポーツの現場に。13年1月から(当時)J1磐田を担当。15年5月、スポーツ部に異動し主に川崎F担当。