最近、新潟の練習でよく見られる光景がある。
消化しているメニューを止めて、片渕浩一郎監督(41)がいきなり選手を名指しして問い掛ける。
「今、どこを見る必要があると思う? はい、幾笑」
この日、指されたのはルーキーのMF宮崎幾笑(きわら、18)。しばらく黙り込んだ宮崎は、ボソボソと答えた。
「…ボールです」
片渕監督はすぐにつなぐ。
「そうだね。ほかにもある。スペース、相手、味方。動きながらそこを見るように」
その後、練習が再開される。中断前に比べると、自然と選手たちから声が出るようになる。
ふいをつかれたような質問が飛ぶ。答えられなければ恥ずかしい。でも、間違うのも嫌だ…。おそらくそう考えながら、答える選手が多いたろう。
そうして返ってきた内容を、片渕監督は否定しない。そこに付け加える、または「その通り」と称賛することさえある。選手からすると、ホッとする一方、「今度は答えられるように」と練習中から頭を働かせるようになる。
「集中して取り組んでいるかどうかです。それができていれば、当然、身に付きますから」と片渕監督。集中力が増せば、当然、練習のムードも良くなる。
第2ステージ第15節終了時で新潟は勝ち点30で年間15位。J2降格圏の同16位名古屋とは勝ち点で並ばれている。辛うじて得失点差で2、上回っている状態だ。次節はG大阪、そして最終節は広島。残り2試合、上位勢と対戦した結果が残留、降格として出てくる。
追い詰められた状況にあることは確かだ。だが、チームに悲壮感はない。むしろ、これからシーズンを戦い、駆け上がっていこうというポジティブ感さえ漂っている。
それも片渕監督の影響だろう。成績不振により解任された吉田達磨前監督(42)から引き継いだのが9月27日。リーグ戦は残り4試合だった。限られた時間の中で行ったのは、原点回帰と目の前のことに集中させることだった。
選手時代、02年に鳥栖から新潟に移籍し、その年で引退。03年から新潟の下部組織で指導者を務めてきた。新潟のサッカーを誰よりも知り尽くしている。
新潟ユースの監督時代の教え子には、日本代表DF酒井高徳(25=ハンブルガーSV)らがいる市内の高校に通うユース選手の授業態度、学校生活を厳しく律し、乱れていればレギュラーであってもベンチから外した。一方、愚直に取り組んでいる選手には必ずチャンスを与えた。
「当たり前のことに集中して取り組むことが大切」。崖っぷちに立たされた新潟を指揮することになっても、その姿勢を貫いている。指揮官の腹が座っているから、選手に迷いはない。
残り2試合。詰め込んできた内容に結果が伴う瞬間が待たれる。
◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)1月12日、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。新潟はJ2時代から取材。サッカー以外にはBリーグ、Wリーグのバスケット、高校スポーツなど担当。



