なでしこのつぼみは、たくましく咲いています。昨年12月から1月にかけて開催された高校女子サッカー選手権(兵庫)で、連覇を狙った藤枝順心(静岡)は準々決勝で大商学園(大阪)に0-2で負けました。ボールを保持してパスをつなぐ藤枝順心のスタイルを最後まで貫き、2失点はいずれもセットプレーから。試合終了後は、ピッチにうずくまって泣く選手、立ちつくす選手…それぞれが、悔しさをあらわにしていました。その様子を見て、取材の際に何と声を掛けようかなと考え始めていました。

 しかし約10分後、彼女たちの表情には笑顔が戻っていたのです。さっきまで泣いていたのに、と思わず面くらいました。最初に声をかけてきてくれたのは、主将のMF福田ゆい(3年)。「楽しかった!」と言うので、さらに驚きでした。泣きはらした目は充血していましたが「切り替えの早さが、私たちの強みですから。守備は崩される場面は無かったし、FWは走りきって、楽しかった」と明るく話してくれました。

 取材を終えて、頭に浮かんだのはなでしこジャパンの姿でした。連覇をかけて臨んだ2015年の女子W杯カナダ大会決勝。アメリカに敗れたなでしこジャパンの選手たちは、涙をふいて表彰式に臨みました。そして最後は選手同士が肩を組み、ほほえみながらロッカールームに向かう場面がありました。大きな悔しさを抱えながら、顔を上げてチームメートが声をかけ合い、支え合う。連覇は成し遂げられませんでしたが、テレビを通じて、彼女たちの芯の力強さは伝わってきました。

 藤枝順心の福田ゆいは卒業後、INAC神戸への入団が内定しています。大学進学への道も考えましたが、同サッカー部の多々良和之監督から「なでしこジャパンを狙うならINAC神戸に」というアドバイスもあり、決心したそうです。「順心で成長できた。INACでも自信をもって積極的にプレーできるようにしたい」と話していました。センターバックとして全試合に先発フル出場したDF鈴木杏那(3年)も、卒業後もサッカーを続けます。2年時まではボランチで活躍しており、正確なフィードから得点を演出した場面もありました。目標は「長谷部選手のようになりたい。目立つ選手は必要だけど、陰からチームを支える選手にもなりたい」と将来を見据えていました。

 2人を含めて、U-20女子代表や、なでしこジャパンを目指して前進し続ける選手はたくさんいます。倒れてもすぐに起き上がる力強さを、彼女たちはもう手に入れています。プレーだけでなく、精神的にも強いなでしこジャパンの誕生に、期待です。


 ◆保坂恭子(ほさか・のりこ)1987年(昭62)6月23日、山梨県生まれ。埼玉県育ち。10年入社。サッカーや五輪スポーツ取材を経て、15年5月から静岡支局に異動。今年はJ1清水とJ3藤枝の担当に。3年ぶりの静岡ダービーが楽しみです。