【ドーハ(カタール)=27日】日本の心臓が、オーストラリアの壁を切り裂く。セットプレーのキッカーで右足のスペシャリストMF遠藤保仁(31=G大阪)が、オーストラリアとのアジア杯決勝戦(29日)を前にようやく公式球(ナイキ製、T90)の感覚をつかみ、全開宣言した。チームの和を第一に考え、専売特許のPKはMF本田圭佑(24)に譲っている。日本の最年長が、若いチームをまとめ、04年中国大会以来、2大会ぶりにアジアの頂点に立つ。

 やっと、ボールの特徴をとらえた。これでボールが狙ったところに飛ぶ。遠藤は、ドーハ入り後、20日以上も非公開練習中にFKを蹴り続け、大一番の前にようやく感覚をつかんだ。

 遠藤

 オレは適当にコースを狙ってボールを蹴るイメージがあるけど、本当はすごく繊細なんだよ。公式球として許容範囲内の誤差でも、空気圧の違いを足先で感じられる。特に今回はJでもW杯でも使ったことないボールだから、特徴をとらえるのにてこずった。少し軟らかくて飛ばない。でももう大丈夫だ。つかんだから。

 相手はオーストラリア。直接FKチャンスでは、今まで以上に高い壁がそびえ立つ。「壁の高さより、自分が狙ったところに蹴られるか、だから」。W杯南ア大会のデンマーク戦でも、高い壁をあざ笑うかのような精密なFKでネットを揺らしただけに、感覚をつかんだことで決定率は上がる。

 コロコロPKなど、相手GKの動きを読み切るPK職人でもあるが、試合中はMF本田圭に譲ろうと思っている。シリア戦と韓国戦後、大阪の自宅に電話した時だ。貴美子夫人から「あんた、何でPK蹴らんの?

 みんな期待してたんだよ」と聞かれた。

 遠藤

 本田が蹴りたがっていたから、譲ったんだよ。優しいだろう?

 貴美子夫人

 今度は、あなたが蹴って。子どもたちも、鹿児島の両親も親戚もみんな、待ってるんだよ。

 遠藤

 もちろんオレにとって家族が一番だよ。でも今はチームのことを考えないといけない。PKでもめるのはよくないだろう?

 09年9月、オランダ戦でFKをめぐって中村俊と本田圭がもめる現場にいた。ザックファミリーの長男として、チームの和を乱したくない。優勝のために、和を大切にする自己犠牲の気持ちは固まった。

 しかし、PKは譲ってもFKは譲らない。「PKは誰が蹴っても決まる可能性が高いけれど、FKはそれぞれ得意なポイントがある。ゴールに向かって中央から左はオレが狙うよ。今なら入る気がする」。04年アジア杯、チームは優勝したが、遠藤は準決勝で受けた退場処分で決勝の舞台は立てなかった。「ファミリー思いの長男」が、アジア杯をわが子のように抱く日は目前に迫った。【盧載鎭】