日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督(62)が緊急視察したその目の前で、新生代表入りを狙う役者がそろい踏みした。ナビスコ杯が開幕し、川崎F-名古屋戦では、川崎FのFW大久保嘉人(32)、名古屋FW永井謙佑(26)川又堅碁(25)がゴールを決め、両チーム合計4得点。それぞれが持ち味を出し、新監督にアピールした。チュニジア戦(27日、大銀ド)、ウズベキスタン戦(31日、味スタ)へ向けた、新生ハリルジャパンは今日19日に発表される。

 これがハリルホジッチ監督の魔力なのか。W杯ブラジル大会でアルジェリア代表を16強入りさせたそのカリスマ性が、両チームのFW陣を突き動かした。代表監督のナビスコ杯視察は異例。その中で、リーグ戦初視察でスコアレスドローを嘆いた途端に、3選手が4発と激しくアピールした。

 口火を切ったのは実績ではJリーガーFW陣では最上位に君臨する大久保だ。前半12分、中村のスローインをエウシーニョが後方に流すところを狙っていた。抜群の跳躍力で競り勝ち、打点の高いヘッドでねじ込むように決めた。御前弾1号の大久保は、ハリルホジッチ監督の視察にも一喜一憂はしない。「今日でW杯が決まるわけじゃない」。逆転負けに笑顔はない。

 初々しかったのは名古屋の快速FW永井だった。早朝からスタッフにその気にさせられていた。朝食時、ブローロ・フィジカルコーチが耳元でささやく。「ハリルホジッチはおまえを見に来てる」。試合中は何度も快足をとばして左サイドでアップダウンを繰り返す。50メートル5秒8のスピードと、攻守に献身的な運動量は、ハリルホジッチ監督がもっとも注目する資質だ。

 持ち味を存分に出しながら、チャンスも逃さない。矢野からのクロスに重心を残しながらの右足ボレー。殊勲の? ブローロ・コーチも「新しい(日本代表)監督。永井はいい時期にきているし、選ばれてもおかしくない」と、後押しした。

 さらに光ったのは川又だ。リーグ戦を含めて今季初先発。ハリルノートにもチェックされたであろう点取り屋は、内容ある2ゴール。後半4分、CKを頭で合わせ、GKがはじいたところを押し込む。さらに同43分には永井の左からのクロスをボレーでダメ押し。「(監督が)来ているのは新聞とかで知ってました。でも正直、今季初先発でやってやろうという気持ちのほうが強かった。それが9割で、その先にアピールになればいいなっていうのが1割」。無欲さが吉と出た。

 ハリルホジッチ監督が初視察した東京-横浜戦はスコアレスドロー。「ゴールがなかったのは残念」「もう少し力強さを見せてくれれば」と語っていた。そのコメントに、両チームは魅入られたように攻め続けた。ハリルジャパン誕生前夜の出色の4発。日本代表は生まれ変わる。その鼓動はすでに始まっている。【高橋悟史】