ピンポイントキックで“イナの日”を飾った。J2札幌は群馬を下し、3試合ぶりの勝利となった。1-0の後半18分には、MF稲本潤一(35)のロングパスから、MF荒野拓馬(22)が今季初ゴールを決め突き放した。開幕14戦連続先発の稲本は守備でも奮闘し、今季6度目の無失点。敵地7戦無敗となった。勝ち点を23に伸ばし、順位は前節の8位から7位に浮上した。

 風向きまで配慮した、クレバーかつ的確なキックだった。1-0の後半18分、センターサークル付近でパスを受けたMF稲本は、瞬時に顔を上げ、右足を振り抜いた。「荒野は動き出しが早いし、練習でもやっていた動きだったので」。追い風で流されないよう軽くバックスピンをかけたパスは、DF裏に走り込んだ荒野の正面に転がり落ち、貴重な2点目につながった。

 前半は向かい風の中、押し込まれるシーンもあっただけに、勝敗を左右するワンプレーだった。「あのような形で点が取れたのは良かった。アウェーの難しい試合で2点を取り、かつ無失点に抑えられたのは良かった」。札幌移籍後、今季唯一の「17日=イナの日」は、鮮やかなアシストと堅い守りで、チームを3戦ぶりの完封勝利に導いた。

 これでJ復帰後最長の14戦連続先発となった。継続して安定したプレーを続けるコツは「メリハリ」。川崎Fでは練習2時間半前にクラブハウスに入り準備していたが、札幌では1時間半前と遅らせた。初めての北海道生活。夫人とのプライベートの時間を増やそうと微調整した。半面、練習後は通常1時間程度で帰るが、15日だけは、マッサージなど、たっぷり2時間半をかけ体をケアした。体の声を的確に察し、柔軟に調整する稲本流が生きた。

 代表で3戦全勝、02年にはプレミアデビューした(8月17日)縁深いイナの日を、今回も最高の形で飾った。それでも「2点取った後に押し込まれる時間帯があった。まだできることがある」と課題を挙げた。世界を知る男に油断はない。常に次を見据え、戦いの準備にかかる。【永野高輔】