湘南ベルマーレの“魂”が受け継がれる瞬間を目の当たりにした思いだった。

 湘南は9日、5試合連続完封勝利中の東京ヴェルディと対戦し、MF菊地俊介(25)の2発などで3-2で逆転勝ちした。その1勝は単なる1勝以上のものと言っても過言ではない。

 開幕から1カ月が過ぎた3月25日のジェフユナイテッド千葉戦で、キャプテンのFW高山薫(28)が右ひざ前十字靱帯(じんたい)を損傷。全治8カ月と診断され、戦線を離脱した。アグレッシブに走り、縦に速く攻める“湘南スタイル”を掲げる湘南にとって、スピード、突破力、決定力を併せ持ち、かつ曹貴裁監督(48)がコーチだった11年に入団し、監督のサッカーを熟知する高山は、戦術的にも精神的にも替えがきかない存在だった。

 高山を欠いて臨んだ4日のカマタマーレ讃岐戦では、0-3と大敗。正念場となった東京V戦で、曹監督は高山が入っていた2列目左に新人MF石原広教(18)を大抜てき。「小学校からうちにいる子で、湘南の選手として何をしなければいけないかが、他の人より確実に分かっている。気持ちを買った」と語った。

 副主将の菊地には、東京V戦2日前の7日になって、高山が復帰するまでの間のチームの主将を任せた。1年前に高山と同じけがを負い、そこから復帰し、チームの中軸を担う菊地に、高山の代わりにチームリーダーの役目を託した。

 菊地は「ボールを持った時は前しか見ない。速く攻める」と、讃岐戦で見失った“湘南スタイル”を東京V戦で先頭に立って実践。石原も「薫君以上のプレーは出来ないですけど、自分がやれる全力は出す」と湘南の選手としての覚悟を決めて戦った。

 曹監督は、東京V戦後の会見で「1番苦しくて、チームのために思っている高山がピッチに姿を見せない現実を、みんながくんでやるというゲーム。薫にも、おめでとうと言ってあげたい」と、入院中の高山にエールを送った。J2に降格した今季、2季連続で高山に主将を任せた。「主将で降格を味わった薫がどうするか…あいつを成長させたいし、それによってチームが成長するのが1番いい」と、高山の成長がJ1復帰のカギだと語っていた。

 高山も開幕前「J1で18人しかできない主将をやって、結果が出なくて自分の力のなさを感じた。辞めるのは簡単だけど負けたくない。結果をしっかり出して、去年の経験が良かったですと言いたい」と並々ならぬ覚悟を語っていた。

 湘南の危機を救ったのは、指揮官が選手に託した高山の魂だった。「主将として薫がやってきたこと、魂を引き継いでやってくれるんだと思いました」。一山、乗り越えた湘南の真価は、15日のFC岐阜戦で問われる。【村上幸将】