昨年覇者の原沢久喜(23=日本中央競馬会)が初の五輪代表に決まった。準決勝で敗れて2連覇は果たせなかったが、逆転での代表入りを狙った七戸龍(27=九州電力)も準決勝で敗退。精神面の課題は残ったが、国際大会7連勝の実績などを買われ、日本重量級の再建を狙う五輪での金メダルを託された。これで男女14人の代表が出そろった。大会は王子谷剛志(23=旭化成)が2年ぶり2度目の日本一に立った。

 夢舞台への希望と歓喜は、悔しさに消された。五輪代表決定会見の約10分間、原沢からは1度の笑顔も生まれなかった。「最後に負けてしまい後味が悪い。精神的に強いと思いこんでいた…」。

 初戦は、2年前の準決勝で技ありを取られた垣田を迎えた。より慎重に入ったことが心身を狂わせる。「技が出ない。体調が良くない…」。辛勝したが、そう感じてしまった。決断したのは「勝ちにいこう。指導の累積でも勝つ」柔道。今月上旬の全日本選抜体重別選手権では、3試合とも充実の内容で快勝していた。そのイメージとのギャップも判断を促したが、それが本来の姿を失わせた。

 内股を軸にする本格派は、日本男子の井上監督ら王道の系譜をくむ。勝ちにこだわりすぎることで、豪快さが失われた。準決勝の上川戦でも、強気に胸を合わせる大外刈りがでない。過度の警戒。3-0の旗判定で昨年の全日本選抜以来約1年ぶりの敗戦。らしくない消極的な判断に、「重圧は感じていなかったが、どっかでそういう気持ちがあったのかも」と口にし、井上監督も「どこかに隙があったのかも」と臆測した。

 公開された強化委員会では満場一致で異論は出なかった。国際大会7連勝、七戸にも4連勝中。首脳陣の目はどう鍛えるかに向かう。100キロ超級にはロンドン五輪王者で世界選手権7連覇中のリネール(フランス)が待つ。世界選手権出場経験がない原沢は1度も対戦経験がないが、井上監督は「普通のことをやっては破れない。どう異常なことをやれるか」と述べた。

 無差別級がなくなった88年ソウル五輪以降、その年の全日本王者が6大会連続で代表となり、3人が金メダリストに。前回ロンドンの上川のみが優勝できずに臨んだが、2回戦で敗れた。逆境はたしかだ。「死にものぐるいで覚悟を決めてやるしかない。歴史ある柔道家に名前を刻みたい」。金メダルへの残り100日が始まる。【阿部健吾】

 ◆原沢久喜(はらさわ・ひさよし)1992年(平4)7月3日、山口県下関市生まれ。山口・早鞆高-日大-日本中央競馬会。15年に全日本選手権、今年は全日本選抜体重別選手権を初制覇。昨年12月のグランドスラム(GS)東京、今年2月のGSパリなど国際大会は7連続優勝中。世界ランキング2位。得意は内股。191センチ、123キロ。