東京五輪が決定し、競技会場予定地に近い築地が「東京五輪のヘソ」を宣言した。江戸っ子らしい気の早さで場外市場からは「海路の拠点に」「24時間眠らない街にしよう」などと、具体的な案も飛び出している。世界舞台で活躍する切り絵作家も築地の町並み狙った作品にとりかかり始めた。東京五輪開催を契機に築地が新たな国際観光スポットに生まれ変わろうとしている。

 東京五輪が決定し、早くも築地では、「東京五輪、大歓迎」の姿勢を打ち出した。築地場外市場(場外)のNPO法人「築地食のまちづくり協議会」(食まち)の理事長で、老舗「鳥藤(とりとう)」の鈴木章夫社長(65)は「五輪が来るねぇ~。そりゃ、築地は変わるよ」と言葉に力を込め「いや、絶対に変わる。世界の方々をいつ何時も受け入れられる“東京のヘソ”にならないと」と威勢よく話した。

 都中央卸売市場築地市場(場内)は16年3月までに豊洲に移転する。その跡地開発に目が向けられる。場内を統括する都中央卸売市場新市場整備部管理課では「移転は必ずする。ただ、跡地はどうするか何も決まっていない」と“白紙”を強調する。「だからさ、築地に残る我々が指針を示さないといけねぇんだよ」と鈴木氏の鼻息は荒い。

 現在、場外関係者からは、ハブ化した羽田空港からのアクセスを意識する意見が多い。場内は隅田川に面していて、かつては漁船が直接接岸して鮮魚を卸していた。護岸整備はされているので客船ターミナルとして羽田空港発の定期船を受け入れ、五輪会場へも海路で結ぶアイデアだ。さらに鈴木氏は「全国から魚や野菜、肉や加工品が築地には集まるんだから、24時間いつでもうめぇもんが食べられる眠らない町にすればいい」とブチ上げた。

 五輪招致に成功した場合、築地は重要拠点になりそうだ。お台場・有明地区には体操、バレーボール、テニス、レスリングなど、夢の島地区では水泳、バスケットボールなど2地区で計27競技が集まる。

 また、選手村は晴海埠頭(ふとう)、かつて物議をかもしたプレスセンターは東京ビッグサイト内に開設され、注目選手や競技の終わったメダリストが出没する可能性も高い。築地は銀座、汐留の中継地点でもあり、外国人に人気の歌舞伎座、浜離宮とも隣接している。“東京のヘソ”となる築地の再開発が20年東京五輪の活況のカギを握ることになりそうだ。【寺沢卓】

 ▼現在の築地

 場内は16年3月までの移転が決定。築地に残る場外は独自路線を掲げて、毎月ごとにイベントを打ち集客をはかっている。食のプロだけではなく国内外の観光客でごった返し、平日、日曜は2万~3万人、土曜は4万人以上(食まち調査)が路地までグルグル回っている。場外関係者からは「早いところ場内が移転して、築地の再開発をしてもらいたいねぇ。7年後の五輪は忙しいぞ」との声まで聞こえる。

 ▼4年前は…

 築地は2016年の東京五輪招致に大反対の立場だった。場内の豊洲移転で紛糾した。さらに場内移転後の跡地には五輪を取材する世界各国の報道陣が集結するプレスセンター建設プランが突然出てきた。場内移転反対とセットとなり、築地は五輪開催拒否の象徴となった。16年の五輪開催地が決議された09年10月、東京五輪は選考委員の評価は高かったが、国民支持率55・5%(IOC調査)と最終選考に残った4都市の中で最も低いことも影響し、16年はリオデジャネイロに決まった。