<テニス:ウィンブルドン選手権>◇最終日◇6日◇オール・イングランドクラブ◇男子シングルス決勝

 【ウィンブルドン=吉松忠弘】全仏覇者のラファエル・ナダル(22=スペイン)が、歴史的一戦を記録ずくめの初優勝で飾った。122年ぶりの6連覇を狙った王者ロジャー・フェデラー(26=スイス)を6-4、6-4、6-7、6-7、9-7で、4時間48分の死闘の末に破り、80年ボルグ(スウェーデン)以来28年ぶりに全仏、ウィンブルドン同年2冠の快挙を達成した。

 ウィンブルドンのすべてが詰まったドラマだった。午後2時37分の試合開始から、2度の降雨中断を挟み、闇が迫った午後9時16分まで6時間39分。4度目のマッチポイントで、フェデラーのフォアがネットにかかり、死闘に幕が下ろされた。「言葉では言い表せない気持ちだ。信じられない」。ナダルは倒れ込み、天に向かってほえた。

 雨、風、夕闇。ウィンブルドンが抱える自然の中で、ミラクルショットが、コートのあらゆる場所に飛んだ。フェデラーの122年ぶりの6連覇か、テニス界で最も困難な全仏&ウィンブルドン同年2冠をナダルが成し遂げるか。ショットごとに1万5000人の観客、両陣営の歓喜と落胆が入り交じった。

 フェデラーは25本のエースを放ち、ナダルは凡ミスわずか27本と鉄壁の守備。合計413ポイントで、わずか5ポイントの差で勝敗が分かれた。公式発表されたプレー時間は4時間48分、68年オープン化以降最長の決勝となった。

 ナダルは相手の武器であるフォアを徹底的に避けた。サーブはバックに集中させ、大事な時に力の入らない体の正面を狙った。この作戦が当たった。昨年、一昨年と決勝でフェデラーの弾丸サーブの前に敗れてきたが、ストローク戦に持ち込めばナダルのものだ。得意の粘りとカウンターで振り切った。「小さい時からの夢がかなった瞬間だ」。関係者席に駆け上がり、家族やコーチと抱き合い、そのまま貴賓席でスペイン王子から祝福を受けた。

 日没直前だった。表彰式ではカメラのフラッシュが両者をたたえた。「もう何も見えなかった。このゲームを落としたら、順延を申し込もうと思った」。ナダルの頭に「翌日」がよぎった直後に勝負は決した。

 80年のマッケンローとボルグによる激闘と重なる名勝負だ。当時マッケンローは初の決勝進出、第4セットのタイブレークは18-16、3時間55分のフルセットでボルグが勝った。マッケンローは敗れたが、その後3度の優勝を飾る。今大会、そのマッケンローとナダルは練習し、伝説の王者から、芝の帝王学を伝授されていた。

 「全仏に初めて優勝した時より驚いている」とナダルは言った。テニスには引き分けがない。必ずいつかは勝者と敗者が決まる。そのつらさや痛みを知り尽くした両選手だからこそ生まれた歴史的一戦だった。