07年6月に大相撲時津風部屋の序ノ口力士、時太山(当時17、本名・斉藤俊さん)が暴行死した事件で、傷害致死罪に問われた元親方の山本順一被告(59)に対する判決公判が29日、名古屋地裁で開かれた。芦沢政治裁判長は「犯行を主導した」として懲役6年(求刑懲役7年)を言い渡した。山本被告は収監されたが、弁護側が即日控訴して保釈を請求。名古屋地裁に認められ、保釈された。

 山本被告の主張は通らなかった。執行猶予が付いた兄弟子とは違い、言い渡されたのは実刑判決。「被告人を懲役6年に処する」。判決の瞬間、黒のスーツに白シャツ、グレーのネクタイを締めた山本被告は、直立不動だった。証言台に座り、芦沢裁判長が判決理由を述べた70分間も、背筋を伸ばしたまま。目を閉じ、じっと耳を傾けた。

 訴えは、ことごとく切り捨てられた。時太山の死亡前夜、兄弟子が行った暴行について、山本被告は公判で「指示していない」と言い続けた。しかし裁判長は、被告の「お前らも教えてやれ」「てっぽう柱に縛り付けておけ」などの発言が指示だったと判断。「親方は弟子らに対し絶大の支配力を有しており、その影響力は極めて大きい。被告人が犯行を主導した」と暴行の“主犯”であるとした。

 死亡直前のけいこも「違法性の認識があった」とした。山本被告は「通常のけいこだった」と言い張るが、約30分のぶつかりげいこを裁判長は「新弟子に異例」で「正常なけいこの範囲を明らかに逸脱したもの」と指摘。被告自らが木の棒で暴行し、兄弟子の金属バット殴打も黙認、ぶつかり相手だった兄弟子の終了意向も無視したとした。時太山が部屋から逃走したことに対する制裁目的と認定。「安易かつ短絡的に暴力を用いて制裁を加え、被害者の人間的尊厳を著しく軽視した」と断罪した。

 山本被告は、自らがかかわっていない兄弟子の暴行も、死亡に寄与していると訴えていた。医師の鑑定書を提出したが、裁判長は「採用しがたい」と却下。傷害致死罪でなく、監督義務を怠った業務上過失致死と主張するすべてを否定された。「保護者的立場が期待される親方が言語道断。刑事責任は重い」。厳しい言葉を浴びせられ、被告は時折、首をかしげた。

 弁護側は即日控訴。判決後、収監された山本被告は1000万円の保証金を払い、夕方に保釈された。疲れ切った表情で、問いかけには無言だった。「執行猶予付き」の判決を求め、法廷で戦い続ける意向だ。芦沢裁判長は言った。「犯行後も弟子に口裏合わせを強要し、公判においても不合理な弁明ばかり。反省の情が見えない」。事件から約2年。角界を揺るがした事件の真実は、1つしかない。