「貴乃花つぶし」が逆効果になった。2月1日予定の日本相撲協会役員理事選に立候補した貴乃花親方(37=元横綱)に対し、各一門が露骨な締め付けに動いていることが24日、分かった。23日に一門会を開いた時津風一門では、投票の際に同一門の立会人に票を見せるよう指示。ほかに、全員がカタカナで記入するなどの投票案が浮上している一門もある。この動きに、多くの若手親方衆から反発の声が上がった。現役そっちのけで繰り広げられた熱き闘い。初場所が終わり、勝負の1週間が始まった。

 がけっぷちの貴乃花親方への追い風となるのか。組織票固めへの過剰な動きが、逆に信頼関係を失わせていた。初場所千秋楽の国技館、ある若手親方がまくしたてた。「そこまでやるか、って感じ。それなら選挙じゃなくて、挙手でいいでしょう。心情的には貴乃花親方に同情しますよ」。

 23日、時津風一門は国技館で一門会を開いた。幹部から告げられたのは、露骨な貴乃花親方への投票阻止。「投票の際には一門の立会人に用紙を見せよう」と働きかけたという。選挙は、2つの投票箱を各一門選出の立会人が囲み、チェックする。本来なら「2枚入れないか」など不正を監視する役目だが、これまでも“踏み絵”のように立会人に見せて投票する親方は多かったという。

 ところが4期8年ぶりの選挙だ。あしき「慣例」も、多くが初選挙になる若手親方には「常識外」に映った。時津風一門は理事に陸奥親方(元大関霧島)と鏡山親方(元関脇多賀竜)を擁立。選挙協力する高砂一門の九重親方(元横綱千代の富士)とともに、合計30票で3人の当選を目指す。当選ライン10票を考えれば、1票もムダにできない。しかも、同一門には数人の貴乃花支持者がいると言われている。「結束」に躍起になるのは仕方なかった。

 別の一門でも似たような動きがある。ひらがなやカタカナで記名を統一できないか、何か投票用紙に「暗号」めいた文字を入れられないか-。バカげたような話だが、真剣に話し合っているという。ある中堅親方は「こちらは一門の決まりを破るつもりはないのに、信頼できないのでしょう。寂しいですよね」と嘆く。厳しい票の締めつけが、裏目に出ている形だ。

 選挙管理委員会は初場所13日目の22日など、これまで複数回の会合を開いた。当初は「自分の名前を書いて投票しよう」という驚くべき意見が届いたという。さすがに、協会の規則「寄付行為施行細則30条」に「理事及び副理事の選挙は、評議員会において評議員の単記無記名投票により行う」と記されているため、大山委員長(元前頭大飛)が却下した。「無記名」の原則を無視して「記名案」が出るほど、一部の「貴乃花つぶし」の思いは強い。

 貴乃花グループは現在、ともに二所ノ関一門を離脱した6親方との「7票」しかない。票集めに苦戦し、当選は厳しい状況。それでも支持者は、貴乃花親方への投票阻止の動きより、選挙の意義を失う言動に怒りを隠せない。大嶽親方(元関脇貴闘力)は「それじゃ選挙じゃないでしょ」と話し、常盤山親方(元小結隆三杉)は「財団法人なんだから、あり得ない」。投票日まで、あと7日。土俵外で続けられていた熱き闘いは、これからが本番だ。【近間康隆】