「過ちの功名」で、背泳ぎの寺川綾(26=ミズノ)が心のゆとりをつかんだ。昨年11月のアジア大会で金メダルを狙ったが、50メートルは銀、200メートルは銅止まり。その反省から「最後の調整で力を出し切ってしまい、本番で力を出せなかった。同じ失敗はしない。ガンガン飛ばさず、しっかり判断しながらやりたい」。大舞台を目前に控え、柔和な笑顔を輝かせた。

 01年福岡の世界選手権で、16歳の美少女スイマーとして注目を浴びた。04年アテネ五輪200メートルで8位入賞したが、その後はスランプに陥り、08年北京五輪は落選という憂き目に遭った。翌年、大阪から上京し、北島を育てた平井伯昌コーチに師事。すると昨年は100メートル59秒13で世界ランク2位、そして今季の59秒17は世界ランク1位に輝く。代表入りから10年。くすぶっていた才能が、一気に開花しそうな勢いだ。

 173センチの長身に、長い手足を生かしたダイナミックな泳ぎが持ち味。課題のスタート反応と飛び出しに取り組み、6月の米アリゾナ州の高地合宿ではスピードアップに磨きをかけた。長い競技生活と練習熱心さゆえ、腰痛が持病。一時期は寝返りを打つのも苦痛だったが、毎日のハリ治療効果で「もう良くなりました」。すっきりした表情で不安材料を打ち消した。

 平井コーチは「頭で考える子なので、おおらかになれば」と言う。一本気な性格で練習から100%。結果を気にして、力を発揮できなかったのがこれまでだ。寺川自身も「心に余裕を持って」と肝に銘じる。

 今回の上海、来年のロンドンが競技人生の集大成。「大きな大会で自己ベストを出したことがないので。そこが目標です」。今大会は個人3種目(50、100、200メートル)にリレーとフル稼働。紆余(うよ)曲折を経て26歳の大ベテランとなった寺川が、笑顔で自らの殻を破りにかかる。【佐藤隆志】

 ◆寺川綾(てらかわ・あや)1984年(昭59)11月12日、大阪市出身。近大付-近大-ミズノ。04年アテネ五輪200メートル背泳ぎ8位。09年世界選手権でも同種目8位。10年アジア大会は50メートルで銀メダル、200メートル銅メダル。同年11月の千葉国体100メートルで59秒13の日本新記録をマーク。173センチ、59キロ。血液型はO。