阪神が3点を追う9回1死一、二塁から4番マルテの18号3ランで同点に追いつき、土壇場で引き分けに持ち込んだ。日刊スポーツ評論家の里崎智也氏(45)は、阪神ベンチが得点圏に走者を置いて8番打者を迎えた場面での采配に着目した。

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9回のマルテの同点3ランを見て、ヤクルト・マクガフの2四球が実にもったいないと感じたと同時に、序盤に阪神ベンチが見せた対照的なシーンが、印象に残った。

ヤクルトは2回2死走者なしから四球とヒットで一、三塁に。ここで阪神ベンチは8番元山との勝負を選択。元山を歩かせて満塁として、9番の投手スアレスと勝負という選択肢もあったと感じたが、結果は元山に中前に運ばれ、先制打を許した。

そして4回にも同じような状況が巡ってくる。ヤクルトに追加点を奪われ0-2でなおも2死二塁。そして打者は再び元山。今度は申告敬遠で2死一、二塁として、9番スアレスを三振に打ち取っている。

2回2死一、三塁と4回2死二塁では、一塁が空いているかどうかの違いはある。野手と投手のどちらと勝負するかという選択は同じ、という条件だった。阪神のマウンドは先発の青柳。制球を乱す確率は低い。満塁からスアレスに押し出し四球は考えづらい。

また、二塁に走者を進めることで、スアレスにヒットを許した時に2点を失うリスクは伴うが、打率1割に満たないスアレスに打たれる確率と、元山に打たれる確率を比較すれば、元山を歩かせるのも1つの手だと感じていた。

私はパ・リーグで育ったので、セ・リーグとは交流戦、日本シリーズで対戦した経験しかない。パ・リーグでは投手は打席に立たないため、この試合のように、9番に投手が控える中で8番打者勝負という場面を非常に興味深く見ていた。

試合はマルテの同点3ランで阪神が勝ちに等しい引き分けをものにしたが、序盤の采配ひとつで勝ち越し3ランにもなっていたことを考えると、今までとは比較にならないほど1点の重みが違ってくる。

さらに、この日は試合開始前から雨が降っていた。先制点の意味合いがさらに大きかったのは言うまでもない。これからますます1点を巡る采配の重要性が増すと痛感した。(日刊スポーツ評論家)

ヤクルト対阪神 2回裏ヤクルト2死一、三塁、元山に先制の中前適時打を浴びる青柳(撮影・鈴木みどり)
ヤクルト対阪神 2回裏ヤクルト2死一、三塁、元山に先制の中前適時打を浴びる青柳(撮影・鈴木みどり)