巨人がリーグ連覇した13年の秋、日刊スポーツは長野久義外野手(34)に優勝の手記を頼んだ。一部を抜粋する。

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「野球とは、人生そのものである」。長嶋監督の言葉をお借りし、つぶやいてみた。恥ずかしかった。今は、まだまだ、そんなことは言えない。そんな道を歩んでいるとも思えなかった。2回もドラフト指名を断っている。逆の立場なら「コイツ何なんだ」と思うだろう。どう見られているのか、という怖さが自分の中にいつもある。批判はすべて受け止めなければ、と決めている。

ふと考える時もある。もし06年ドラフトで日本ハムに入団していたら、今年でプロ7年目だなと。当時は稲葉さん、坪井さん、(森本)稀哲さんと、そうそうたる外野の布陣だった。1軍に定着できたか。新人王は絶対に無理だったな。さまざまな事情があって、今は巨人のユニホームを着てプレーさせてもらっている。その一方で「早くプロに行きたかった」という思いも、事実としてあった。

ハッキリ言えることは1つ。今、ジャイアンツで野球ができて幸せだ。決断は間違っていなかった。そう思わせてくれたのはチームメートだった。

亀井さん、内海さん、山口さん。1年目の合同自主トレで食事に誘ってくれた。ルーキーでも外様の心境だった自分を受け入れ、救ってくれた。素晴らしい仲間と野球ができる。素直に思えた。この恩と、入団までの歩みが絡まり合って、決意が芽生えていった。

自分は角(かど)で生きていこうと決めた。

角と脇役は違う。オセロは角を取れば勝てる。中央の石と角が連携すれば、いっぺんに石をひっくり返せる。パズルだと、角は4つしかないピース。形が分かりやすいから、最初に組める。巨人には中央に座る人がいる。周りを見渡しながら支えることで必要とされる人になりたい。だから山口さんを尊敬する。あれだけ成績を残す人が角に徹しているから巨人は強い。

(中略)夏のことだった。復活したサザンオールスターズの「栄光の男」という曲が耳に入ってきた。


この世に何を求めて生きている?

叶わない夢など追いかけるほど野暮じゃない

生まれ変わってみても栄光の男にゃなれない

老いてゆく肉体(からだ)は愛も知らずに満足かい?

喜びを誰かと分かち合うのが人生さ


自分の人生そのものを歌っている気がした。ヒーローになんかなれない。集合写真は端っこがいい。フラッグを持って先頭を歩くより、隅を歩いて、みんなの喜ぶ姿を眺めていたい。

細く長くとは考えていない。角を務められない男になったら、潔く野球をやめる。長野久義らしく生きて、いつか「野球とは、人生そのものである」と胸を張って言ってみたい。

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当時は28歳。心のありようは変わっているかもしれない。ただ冒頭の段落については、何も変わっていないと思う。触られたくないであろう、プロ野球選手としてのルーツ…負い目に対して真っ正直な筆致に、いっぺんで長野という選手が大好きになった。

言動で自己主張することは皆無。残す数字からは何歩も控えめのスタンスを、かたくなに通した。周囲は気にも留めなかっただろうが、彼にとっては、絶対に譲れない1点なのだと思った。もらった恩を返そうとしたのだろう。移籍した選手や若手、スタッフ、新外国人選手に対しては、とりわけ優しかった。

下支えが主張だった。長野みたいな選手が強い意志のもとで控えているから、巨人という組織には奥行きがあった。ルーツが変わらない以上、また性格上、立ち居振る舞いを変えることはないだろう。広島は大きな力を手に入れた。【宮下敬至】

◆宮下敬至(みやした・たかし)99年入社。04年の秋から野球部。担当歴は横浜(現DeNA)-巨人-楽天-巨人。16年から遊軍、現在はデスク。