「ミスターホークス」と呼ばれる男が戻ってきた。ソフトバンク小久保ヘッドコーチが誕生した。V5を狙うチームにとってはオフ最大の「補強」だろう。侍ジャパンでは日の丸を背負ってタクトを振った。ホークス、巨人で「4番」を張った経験もある。工藤監督の希望での入団ということだから、存分に「小久保流」のヘッド業務をまっとうしてもらいたい。

「妥協」という言葉を知らない男だ。少年時代は倒れるまでやれ、と指導者に言われ実行した。ランニングに駆け出し本当に倒れた。迎えに来た母親をあきれさせた。選手時代の練習も手抜きはない。キャンプでは日が暮れてもバットを振った。「常勝」と呼ばれるチームに彼のイズムをしっかり注入できれば、さらに強さは増そう。この日行われた入団会見。小久保新ヘッドコーチのキーワードは「球界の手本」だった。そのためにはさらなる「厳しさ」も求めるつもりだ。もちろん、技術だけではないはず。主力選手にも「ダメなものはダメと言う」と平然と言った。「ダメなもの」とは野球に限ったことではなかろう。

侍ジャパンで投手コーチを務めた権藤博氏(日刊スポーツ評論家)は言う。「(当時)78歳にもなった俺を投手コーチにするくらいだから、すごいよ。彼にはインテリジェンスもある。その立場でしっかりと対応できる。普段の振る舞いからすべて立派」。近年の球界の風潮は指導者が選手に遠慮しているようにも見受けられる。反発や反目を生まないために、指導者側が言葉をのみ込んでいることも多い。小久保ヘッドは、その点についても「妥協」はなかろう。

背番号は「90」。先日、ペンを置いた漫画家・水島新司氏の代表作「あぶさん」の主人公・景浦安武の背番号を背負う。「自分が入ってピリッとなれば」。勝ち慣れたチームのカブトの緒をグッと引き締めるには適任者だろう。【ソフトバンク担当 佐竹英治】