火の国の恵みをゲームで届ける。元ロッテ投手の香月良仁氏(37)から連絡があった。「6月27日にeスポーツで荒野行動の大会を開催します」。荒野行動は、強豪校の高校球児たちもハマっているという人気アプリゲームだ。

それにしても、なぜ。熊本ゴールデンラークスからプロ入りした香月氏は、現役引退後、あらためて熊本を眺めた。ゴールデンラークスの母体・鮮ど市場で常に身近にあった野菜の、現状を知った。「農家の方々の後継者不足で、耕作放棄地も増えていて。これは何とか力になりたいと」。

考えた末、eスポーツ専門企業「e-spear」の代表取締役社長になり、セカンドキャリアを歩む。農業とeスポーツ? 率直な疑問が浮かぶ。

「熊本でも、ブランディングして、関東の企業と契約している農家はあります。でも作ることはプロフェッショナルでも、なかなか販路を見つけるのは難しいと感じました」

そこで熊本の農家を応援する物販サイトを立ち上げた。もちろん、簡単に大手サイトに太刀打ちできるわけではない。認知度を高めるために、国内4700万人市場といわれるゲームの世界に興味を示した。

「eスポーツの将来性と話題性、私がやってきた野球の影響力と発進力。ここからサイトへの誘因につなげて、熊本の農家の皆さんの直接収益のモデルを作りたいと思いました」

ECサイトで野菜や果実が売れれば、利益は全て農家に届く。同社の利益にはならない。日本全国の人たちに、熊本の農作物のすばらしさを届けたい-。その思いで動く。

BeARプロジェクトと名付けた。野球、eスポーツ、農業の英語頭文字に、熊本の「クマ」をかけている。第1弾ともなる27日のオンライン大会は、元チームメートの内竜也氏(35)矢地健人氏(33)も参加する。千葉市内のSkyGate社の冠大会になり「千葉行動」と銘打った。野球で培った人脈や能力も、今の仕事に欠かせない。

優勝チームの副賞として、熊本県産野菜の詰め合わせが贈呈される。「スイカが有名ですけれど、野菜も何でもありますよ。トマト、なす、しょうが、レンコン…」。送ってもらったカラフルな写真からも伝わるみずみずしさ。そういえば山都町の通潤橋で飲んだトマトジュースはうまかったな~とごくごく私的なことも思い出した。

話は戻る。認知度も高まってきたeスポーツの世界。多額な賞金が出るプロイベントもある。香月氏は言う。「私たちの活動はプロ野球というより草野球。でも、野球でもプロより草野球の方が人口が多いじゃないですか。日本一の草eスポーツ大会になれるように、どんどん仕掛けていきたいです」。

チームの勝利のために腕を振ったあの日々のように、第1次産業の未来を献身的に支える。【ロッテ担当=金子真仁】

元ロッテ香月良仁氏が取り組むeスポーツ大会の副賞になる熊本の農作物(香月氏提供)
元ロッテ香月良仁氏が取り組むeスポーツ大会の副賞になる熊本の農作物(香月氏提供)