ロッテ佐々木朗希投手(20)が10日、オリックス戦(ZOZOマリン)で完全試合を達成した。

大船渡高校時代、最初に163キロを出す直前の、19年3月27日から担当記者として取材させてもらっている。それを知ってか、先輩カメラマンが「泣いた?」と聞いていた。

泣いてませんよ。完全試合の瞬間はスコアを付け、確認用のスマホ動画を撮りつつ、もう1台のスマホを耳に挟んで運命の時間を時報チェック。感情の入り込む余地がない。あの数分間だけで相当なカロリーを消費した気がする。

あらためて、マリン4階記者席から撮影した動画を見てみる。目の前は観客席。球場の雰囲気がダイレクトに伝わる。6回か7回か、そのあたりからざわめきが止まらなかった。

なんか、ちょっとうれしい。初めて佐々木朗の実戦を見たのは、19年3月31日の作新学院との練習試合。後に本人が「その年のベストピッチ」に選んだ試合だ。球威もすごかったが、もっとすごかったのがスタンド。報道陣、スカウト、非公開のはずなのにどこで知ったのかやって来たファン。それぞれが混ざって座るネット裏で、初対面の隣人同士が立場を超えて興奮を伝え合いたくなる-。というか、伝え合っている。そんな投球だった。

完全試合の日も、間違いなくそんな雰囲気だった。隣席とはしっかり距離を取る-。そんな時代だと誰もが分かっていつつも、見たこと感じたことを共有したくなる。27個目のアウトの瞬間。立ち上がって何度も両腕を突き上げる人、拍手する人、友人とハイタッチする人、慌てて写真や動画を撮る人…。すごい空間になっていた。

それならばと、統計をとった。試合後、担当記者のSNS上で、観戦したフォロワーにアンケート。「完全試合の瞬間、あなたはどうしていましたか?」との設問に「肉眼で」が45%、「写真撮影」が7%、「動画撮影」が18%という回答。選択肢として一応入れておいた「興奮で覚えていない」に30%が集まった。記憶さえ消し去るような興奮も含めて、多くの“目撃者”によって偉業が語り継がれるのだろう。

さて、取材も終わって、忙しくなるぞ-。上司との記事の打ち合わせの電話で球場外に出ようとすると、後輩の横山健太カメラマンが立っていた。

「金子さん」

彼はそう言って、右手を差し出してきた。一瞬、固まってしまった。

「握手ですよ」

横山カメラマンとは大船渡高取材で何度も一緒になった。韓国での高校日本代表のW杯出張にも一緒に行き、高速道路を160キロでぶっ飛ばすタクシーにおびえながら乗った間柄だ。

彼も感慨深いものがあったのだろう。記者の仕事は、あまり取材対象に深い思い入れを持つべきではないと感じる。でも、こんな日だし、たまにはいっか。頑張ってきたし。2人とも、ちゃんと消毒しよう。

こっちも右手を差し出した。【ロッテ担当 金子真仁】

杉本を空振り三振に仕留め完全試合を達成するロッテ佐々木朗希(2022年4月10日撮影)
杉本を空振り三振に仕留め完全試合を達成するロッテ佐々木朗希(2022年4月10日撮影)
完全試合を達成し笑顔を見せるロッテ佐々木朗希(2022年4月10日撮影)
完全試合を達成し笑顔を見せるロッテ佐々木朗希(2022年4月10日撮影)
完全試合を達成したロッテ佐々木朗希に声援を送るファン(2022年4月10日撮影)
完全試合を達成したロッテ佐々木朗希に声援を送るファン(2022年4月10日撮影)