スマートフォンの画面には、149キロを投げ込む背番号22が映っていた。阪神湯浅京己投手(23)は思わず笑った。

「引退試合で120球くらい投げてるんですよ? すげえわって。引退する人の球じゃないなって。えげつない球、投げてるなって思いました」

8月30日。BC・神奈川の乾真大投手兼任コーチ(33)の引退試合を球団公式YouTubeで見届けた。BC・富山時代、公私ともにお世話になった先輩だ。自身も広島戦(甲子園)に救援登板し、1イニング無失点で今季2勝目をゲットした夜。左腕の全盛期さながらの速球に目を奪われた。

思えば、幸運だった。17年のBCリーグドラフト会議で富山から1位指名を受け入団。同時期に、巨人を戦力外になったばかりの乾も加入した。

「やっぱり、富山で乾さんと出会えたのは自分にとって、めちゃくちゃ大きかったんです。ほんとにいろんなことを教えてもらったので」

例えば、キャッチボール。福島・聖光学院から独立リーグに入団した若武者は、とにかくがむしゃらだった。全てが全力投球。1球1球大切に投げることの大切さを教わった。NPBで7年間プレーした先輩の言葉は重みが違った。

「キャッチボールは今でも大切にしていますし、1球1球大事にできているんです。それは乾さんとの日々があったから。だからこそ継続できていると思います」

1球が命取りになる世界。チームの勝敗を背負う場面で投げ続けている今季、あらためて乾から教わった「1球の大切さ」が身に染みる。

動画を見終えると、寂しさよりも、ある感情が湧き出てきた。

「かっこいいなって」

誰しも、いつかは訪れる野球人生の終わり。最後まで野球を極めたからこその149キロに、心打たれた。

「(引退は)いずれ誰にでも来ることだと思いますけど、乾さんみたいに、いい終わり方(をしたい)というか。ああいうかっこいい姿を見られて自分も頑張ろうという思いが出てきましたし、いろんな人にそう思ってもらえるような選手になりたいと思いますね」

シーズン最終盤。最後まで駆け抜けるエネルギーはもらった。今度は湯浅が、かっこいい姿を届ける番だ。【阪神担当 中野椋】

BC・神奈川・乾真大投手兼任コーチ(2022年2月16日撮影)
BC・神奈川・乾真大投手兼任コーチ(2022年2月16日撮影)