何度見返しても、会見場の興奮が伝わってくる。10月24日のドラフト会議当日の関西独立リーグ・堺シュライクスのYouTube。ヤクルトの育成4位で名前を呼ばれた瞬間、松本龍之介捕手(19)は隣にいた大西宏明監督とひしと抱き合った。ややいかつめの19歳の顔が、涙でくしゃくしゃに。右隣にいた畑康裕球団代表ら、居合わせた関係者みんなが泣いていた。
「ドラフトのすごさ、プロ野球のすごさを感じました。感激しました。あんなに泣くんやって…」。自身も近大4年秋にドラフトを経験した大西監督にとっても、指導者として迎えた運命の日は鮮烈だった。
東海大山形3年秋、堺シュライクス1年目の昨秋と2年連続で指名もれを経験していた松本本人は言うまでもない。大西監督ら球団関係者にとっても、幸せな瞬間だった。18年の球団創設から6年。NPB指名1号が誕生した。
独立リーグ所属選手の指名は、もはや珍しいものではなくなった。13年には四国IL香川の又吉克樹が中日から2位で指名され、昨年は同徳島の椎葉剛が阪神から2位指名されたように、上位指名選手も生まれている。だが堺シュライクスはゼロ。「NPBに輩出しない、レベルが低いと見られる立ち位置。だからこそうちのリーグから出したい。そういう反骨心はあったんで」と大西監督は語る。有望選手の獲得に動いても、四国IL人気の前に撃沈。「認めてもらいたいという気持ちがあった。いいチームだし、いい球団。それをもっとみんなにわかってほしかった」ともどかしさが募った。
堺シュライクスは給与は出ない。獲得競争ではそれもハンディになったが、安い費用で寮に住めて、球団のスポンサーが白米や牛乳などを提供してくれる。空いた時間にはアルバイトもできる。環境としては恵まれている自信がある。自信の根拠は、人材だった。オーナーや球団代表、スタッフらがそれぞれの世界のプロで、愛情を持って球団運営にあたっているからこその環境、と思えた。PL学園(大阪)、近大、近鉄、オリックスなどを知る大西監督をして「いいチーム、いい球団」と胸を張れた。環境の良さを知ってもらうには、NPB1号の実績がほしかった。
入団時から好素材だった松本は、期待通りに成長した。入団当初はまだまだ粗さが目立ったが、この1年で「体の強さを、捕手としてのスローイングなど野球の動作としてフィットさせられるようになった」と感じた。昨年までは1球団のみだった調査書も、今年は3球団に増えた。
とはいえ、何があるのかわからないのがドラフト。10月24日当日は、大西監督は朝から住吉大社にお参り。松本本人はあちこちで神頼み。夕方、会見場で球団スタッフが顔を合わせてみれば、全員どこかの神社に足を運んでいた。指名の瞬間、みんなの感情が爆発。感激のYouTubeを見たヤクルトファンは、SNSを通じて「こんなに(指名を)喜んでくれてありがとう」と感謝を伝えてきたという。
ドラフトは、出発点。ここからが勝負になる。た関係者みんなが自分のために泣いてくれたようなチームから巣立つことは、競争を勝ち抜く支えになると思う。【堀まどか】




