成績を残す選手には必ず、理由がある。開幕から1カ月がたち、巨人では今村信貴が、開幕から安定した投球で先発ローテーションを回っている。キャンプ、オープン戦を見て、今年の今村は投球フォームのバランスが良く、リズム、タイミングがかみ合っていた。投手にとって、大事な3要素で、「自分の感覚をつかんだな」と思った。

4月25日、巨人対広島 巨人先発の今村
4月25日、巨人対広島 巨人先発の今村

報道によれば、今春のキャンプで1000球を超える投げ込みをしたという。肩は消耗品と言われる人もいるが、自分の思ったところにいい球を投げられるようになるには、投げ込んで「これだ」とこつをつかむしかない。ただ漫然と投げているだけでは何も生まれないが、しっかりと考えながら投げれば、ひらめきも生まれる。

大事なことは、周囲の声に流されないことである。現代野球ではスピードが評価される傾向がある。速いに越したことはないが、1年間ローテで回った経験がない投手には「速い球を投げたい、勝ちたい」の精神は力みとなり、投球フォームが崩れる原因となる。不思議なもので、つかむには非常に時間を要するのに、失う時はすぐである。

「145キロ以上、出そうとするな」。独り言として、記させてもらった。コントロールとボールのキレと駆け引きで打者を攻めるのが、今村の持ち味。試合になれば投手は必ず力むもので、セルフコントロールが大事になるのだが、スピードへの意識は彼本来の良さを消す可能性がある。

打者が遠くへ飛ばすのと投手が速い球を投げるのは天性のものとも言われる。打者でも遠くへ飛ばそうと意識しすぎれば、フォームが崩れるケースがある。過剰に意識せず、スピードが出る分にはいいが、せっかくつかんだバランス、タイミング、リズムを崩しては元も子もない。

2年前の19年まで巨人のファームの投手コーチを務めた。私が知る今村は、野球には真摯(しんし)に取り組み、人間的には人の良さを感じさせる好青年だった。ただ、私の経験上、マウンドでは自分の意思を押し通すことは非常に重要で、人の良さが勝負の邪魔をする時がある。

それが、頭をよぎったのがオープン戦での投球だった。ソフトバンク戦(3月10日)ではカーブを多投しながら、5回無失点と好投。元オリックスの星野伸之を思い出させるスタイルで「面白いな」と思ったが、次の楽天戦(同21日)では大幅に配球を変更。真っすぐで押し、序盤に失点を重ねた。

周囲の助言か、自分で試したのかはわからないが、開幕前最後の登板なのだから、自分のスタイルで勝負すべき。「我以外皆我師」(われいがいみなわがし)の考え方で人の意見に耳を傾けるのもいいが、書家・榊莫山(さかき・ばくざん)さんの「人皆直行、我独横行」(ひとみなちょっこう、われひとりおうこう)の精神で他人に惑わされず、「今村信貴」を築き上げてはどうだろうか。(つづく)

小谷正勝氏(19年1月撮影)
小谷正勝氏(19年1月撮影)