日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(61)が、甲子園現地取材だからこそ見ることができたシーンから、球児たちの躍動を紹介する。
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専大松戸(千葉)・吉岡道泰外野手(3年)に目をひきつけられた。スタンドから見ていると、自然と目が行く。甲子園に戻ってきた喜びにあふれているからだろう。守備に就く前、ベンチの選手が次々と話しかけ、彼も1人1人に言葉を返す。楽しそうだ。
今春センバツでは中京大中京戦で敗戦の責任を1人で背負った。左翼手で終盤のレフトライナーに飛び込み、捕球に失敗。決勝のランニング2ランとされた。私はベンチで泣く姿を見てつらかった。忘れられない傷を負ったと心配していたが、そんな悲壮感は夏の吉岡にはなく、杞憂(きゆう)だった。
1番打者の吉岡は1回、迷わず初球から打ちにいき左飛。ダッシュでベンチに戻り、3番打者に明豊先発・京本の球筋を伝えた。この回2点を先制すると、2回の守備に就く際に二塁ベースに手を触れてからレフトへ。動く姿の1つ1つが甲子園に戻ってきた喜びと、今度こそ勝つんだというはつらつさに満ちていた。
4回2死三塁で右前適時打を放つと、大きくガッツポーズ。華やかさがある。8回の攻撃中には、ベンチの最前列で大声を張り上げた。ちょうど明豊守備陣がマウンドに集まっていた。球場内は応援もやむ中で、走者1人1人に指示を出している。記者席から、声を張り上げる吉岡の後ろ姿が見えた。「真のムードメーカーだな」と感じた。
9回の守備位置に就く時には、直前に味方の右中間への打球を好捕した明豊の右翼手と中堅手に声をかけていた。2人の笑顔から察すると、吉岡は相手の好プレーをたたえたのだろう。そんなことが自然にできてしまう個性を、いつまでも忘れずにいてほしい。
卒業後も野球を続けるだろうが、この日見せた生き生きした姿を失わないでほしい。例えるならソフトバンクの松田がチームを声で引っ張るように、吉岡にも彼ならではの明るさで、チームを盛り上げる選手でいてもらいたい。
試合終了と同時に両手を上げ、チームの甲子園初勝利を喜ぶと、左足を引きずりながら整列に戻ってきた。おそらく足がつったのだろう。試合が終わるまでは緊張感と集中力で耐えていたのかもしれない。勝って気が抜け、動かなくなったように見えた。
バッティングにはパワフルさと思い切りの良さがあった。6回のバントヒットでは期待通りに猛然と頭から一塁ベースに突っ込んだ。1つ1つの動きに全力さが伝わってくる。この試合は、センバツで捕れなかった強く低い正面へのライナーは飛んで来なかったが、2度の飛球はしっかり処理した。2回戦では、その雪辱を期す場面はあるか。今の充実ぶりからすれば、見ているものを熱くするプレーは、十分に期待できる。




