奈良学園大戦に先発した秋山拓巳(2019年3月6日撮影)
奈良学園大戦に先発した秋山拓巳(2019年3月6日撮影)

鳴尾浜に“根尾フィーバー”が--。中日のドラ1、注目の根尾昂内野手(18=大阪桐蔭)が実戦の場に初登場したとあって早朝からファンが殺到した。そこへ、阪神の先発は矢野燿大監督が早々と開幕投手を宣言したメッセンジャー。9日の試合では午前10時過ぎに入場制限がかかり、場外で我慢強く並んで待機する人が出るありさま。注目の的だった両者の対決は、1打席目は根尾の空振り三振。メッセンジャーが格の違いを見せつけるのかと思われたが、次打席ではボールをしっかり見極めて四球を選び、ただ者ではない一面をのぞかせた。対するメッセンジャーは5回1失点と仕上がりは順調。詰めかけたファンは納得して帰路についたことだろう。

鳴尾浜球場の話題を簡単に取り上げてみたが、まだオープン戦。正直、殺伐とした対決にまでは至っていない。それより、阪神の一OBとして気になって仕方がないのが、ローテーションの確立である。チームは昨年最下位だった。気分を新たにスタートした今季もオープン戦の出足は投打ともにもたついている。投手陣は一応、西勇輝(オリックス)とガルシア(中日)の2枚を補強して厚みは増したものの、まだまだ駒は出そろっていない。

秋山拓巳(27)投手である。脂の乗りきった年齢だ。一昨年、2桁勝利(12勝)を挙げた実績がある。ローテーションの一角を担うべき投手のはずだ。確かに昨シーズンはいまひとつ乗り切れなかった。10月には右膝のクリーニング手術まで受けた。キャンプも今季は2軍スタートだったが、厳しい試練を乗り越えて今月の6日、鳴尾浜球場で行われたプロアマ交流戦、大学との試合ではあったが術後初先発をした。実戦での先発は体力的にも技術的にも順調に進んでいる証しである。予定の2イニングを1安打無失点の内容。故障明けにありがちなフォームの違和感はないし、バランスもいい。リリースポイントにもさほどの狂いはないので、大きな球のバラツキはなかった。開幕ローテーション入りが期待できるピッチングを見せた。

「準備はできていましたし、ゲームへは先発の流れでしっかり入れました。逆球も何球かありましたが、ヒットされた球以外はまずい間違いはしていませんし、問題なく投げ終えられました。良かったと思います。もちろん、監督に見に来てもらうことでモチベーションは上がります。何か言われるまでは、しっかり焦らずやっていきたいと思います」

まずは納得の秋山に対し、視察に訪れていた矢野監督の評価は「見ておきたいピッチャーですし、見られるチャンスだからね。順調に来ていますね。段階を踏んで今やれることはしっかりやれていますよ。球の質とかはもう少し暖かくなれば上がってくると思う。もちろんローテの1人に入ってくると思う。(開幕に)間に合うぐらいの状態じゃないのかなあ」だった。現状をまだ本物ではないと見たのだろうが、ローテーション入りの候補には間違いない。

キャンプ当初は、トレーナー預かりだった。練習内容は制限付き。病み上がりだ。無理はできないとあらば当然だろうが、野球選手でありながら、ピッチャーでありながら、体力面、投球数などを制限されるほど哀れなことはない。焦りは禁物だ。一つ一つやれる事を段階を経て調子を上げていくしかない。「そうですね。前半は制限はしていましたが、キャンプでは合計すると1000球は投げました。もう今は1日100球前後の通常通りのピッチングをしています。これからは実戦でイニング数を増やしていきたい。と言ってもまだ完全ではありませんから。球質、コントロールの精度を上げていきたい。何とかローテーションの一角に食い込みたい」と秋山。

もう故障の影響はない。練習に制限はない。試練は自力で乗り越えてほしい。乗り越えたとき、人間として一回り大きくなれる。

安藤優也ピッチングコーチ「もう普通に投げていますし、内容は良くなっています。あとは先発した時、次回からは3回とか5回とかイニングをのばしていけば大丈夫でしょう」

同コーチは秋山が2桁勝利を挙げた年は現役で活躍していた。いい時の秋山をよく知っているはずだ。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)

奈良学園大との練習試合に先発し無失点ピッチングを見せた秋山拓巳(2019年3月6日撮影)
奈良学園大との練習試合に先発し無失点ピッチングを見せた秋山拓巳(2019年3月6日撮影)