週末のヤクルト戦が2試合続けて中止になった。コロナ禍によるもので、これは仕方がない。選挙の投票に行き、ラジオを脇に置いて、万全な態勢でいただけに、ポッカリと穴が開いた感じ。そんな日曜日の夜、阪神のこれからを考えていた。

中でもユースケのことが気になった。俳優のユースケ・サンタマリアではなく、漫才のダイアン、ユースケでもない。阪神の「悠輔」、大山悠輔のことだ。

というのも、スポーツ紙に監督の矢野が取材に応じ、大山のポジションに言及。外野を守らせることを示唆している。これは新外国人に連動してのことで、また大山は守備位置を動かされることになるわけである。

後半戦の補強として獲得した新外国人、ロドリゲスが来日。まずは2軍で調整してからとはいえ、阪神での1軍デビューも近づいてきた。そこで矢野は、この外国人を一塁で起用すると言明。となれば大山はどうなる? となり、それで先の発言となった。

矢野は、膝に不安のある大山に対して配慮し、三塁より外野の方が…と考えたようだが、それにしても大山をここまで動かしていいものなのか。

大山は打順こそ5番だが、実績的には阪神の顔である。代わりのいないプレーヤーなのに、その扱いは雑なような気がしてならない。三塁から外野、外野から一塁、一塁からまた外野。どこでも守れるのが売りのユーティリティープレーヤーではない。それなのに大山は不満な顔を作ることもなく、けなげに、愚直に守りにつく。だからファンに愛される。

膝の状態がよくなくても、打撃では必ず一塁まで全力疾走。超がつくほどの真面目さがにじみ出るプレースタイルだが、彼のひたむきさの原点はドラフト会議にさかのぼると日刊スポーツで読んだ。

当時の監督、金本知憲が願ったドラフト1位での単独指名。その時、会場には驚きとエッという失望のざわめきが起きた。ほとんど知られていない存在だったからだが、本人にしてみれば、決して気持ちのいいものではなかった。

あのざわめきを喜びに変えるため、大山は自身と戦い、ようやくリーグでも有数の長距離砲となり、そして堂々と阪神のクリーンアップを張っている。

そんな選手の守備位置をまた替えるときた。チームを考える時、まず現状の形をどう整えるか、それが優先すべきことではないだろうか。大山、佐藤輝が最も力を出す環境にする。現状は4番佐藤輝で5番大山。そして一塁大山、三塁佐藤輝。これがベストと結論が出たはずだった…。

ところが新外国人が加わることで、優先的に外国人ありきの形作りが始まったようだ。ロドリゲスは触れ込みでは一塁、三塁、外野が守れるということだった。でも矢野ははっきりと「一塁やろ」とした。新外国人だから期待は大きい。早くチームに合流して、反転攻勢の核になってほしい。それは理解できる。でも、それが最優先か、といえば違うような気がしてならないのだ。

果たして大山が矢野の予告通り、外野守備を告げられたら(もう通達されている?)、どう対応するのか。彼なら文句のひとつも言わないだろうし、常にベストを尽くすだろう。僕は長い取材経験で、こういったチーム事情によるポジション変更での選手の葛藤を幾度となくみてきた。試合に出てナンボ。言われたことを忠実にこなすのが選手の務め…。わかります、わかっています。しかし、割り切れない感情の揺れは必ず存在していた。

膝の状態を考えるから外野となると、三塁守備と大きな違いがあるのか。それが理解しえていない僕だから、どうしても今回の発言が気になるのだ。

そりゃ大山はやりますよ。黙って、男を貫くでしょう。それも大山の魅力だけど、僕はもっと彼をチームの顔として扱っても、と思っている。それほどの力をつけたし、実績も着実に重ねている。

ロドリゲスが期待通りに働けばいいが、彼のポジションを巡り、摩擦、確執が生まれないことを祈りつつ、これから好漢・大山の動きを見定めようと思っている。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)

ヤクルト対阪神 7回表阪神2死満塁、中前適時打を放ち代走が送られてベンチに戻った大山は笑顔でナインとタッチする(2022年7月8日撮影)
ヤクルト対阪神 7回表阪神2死満塁、中前適時打を放ち代走が送られてベンチに戻った大山は笑顔でナインとタッチする(2022年7月8日撮影)