<イースタンリーグ交流試合:巨人4X-3阪神>◇20日◇ジャイアンツ球場


捕手として通算出場試合1527、コーチとして4球団で計21年間(うち1年間は編成担当)の田村藤夫氏(61)は、巨人の高卒2年目・菊田拡和内野手(19=常総学院)の打席に、絶好球にバットを出すことの大切さを強く感じた。

  ◇  ◇  ◇  

菊田は5番左翼に入っていた。2年目になってどんなバッティングをするのか、打席での結果にかかわらずボールの狙い方を特に見ていた。

第1打席は阪神2番手の加治屋に対し

<1>外角スライダーがボール

<2>外角カットボールをファウルで1-1

<3>内角よりのツーシームを打って三塁への内野安打。

第2打席は同じく加治屋に対して

<1>インコースから中に入ってくる甘いスライダーを見逃してストライク

<2>外角へのカットボールに泳いだスイングで遊ゴロ。

この2打席を見て感じたのは、まだストレートだけを狙っている、ということだった。変化球が頭にない。ストレートもしくはストレート系なら打つが、変化球は待つ。追い込まれるまでの菊田の考え方を要約すると、そういう思考のように受け止めた。

ポイントは第2打席の初球だ。内角から中へ入ってくる甘いスライダー。これは加治屋のコントロールミスで本来は外角を狙ったもの。ホームランボールだった。

そのボールに対し菊田は、ピクッと体が反応し、私が見た印象ではやや腰を引くような動きで見逃した。そこから推測できる菊田の一連の動きは、ストレート狙いで待っていたところ、内角ストレートが来たと思い、体を若干避けた、という読みだ。そして甘いスライダーだったことで、あっ、と思ったのではないだろうか。

あくまでもスタンドから見ていた勝手な想像だ。私が捕手で受けていたとしたら、菊田の反応、体のわずかな動きから得られる情報を集めると、そういう仮説が立てられる、という意味だ。私がこの日加治屋とバッテリーを組んだなら、この反応を見て2球目にストレートは選択しない。スライダーを続けるが、今度はしっかり外角に要求すると思う。

これは多くのバッターが直面する課題と言える。もちろん、基本はストレート狙いをする中で、追い込まれた後はストレート狙いの中で変化球をカットしたり、状況に応じて変化球を打ちに行くことになる。ただし、早いカウント、この日の菊田の第2打席で言うなら、初球に甘い変化球が来た時は振るべきだ。

菊田は2年目で、こうして試合で経験を積めるのだから、実戦の中でしか得られないものを大切にしてほしい。まず、若いうちに甘い変化球にバットを出すことを覚えてほしい。それが追い込まれる前であっても、絶好球を逃さないというのはプロでは鉄則になる。

それだけプロになると打てる球というのは少なくなる。この日のように、たとえ初球でも甘い変化球にバットが出てくるようになれば、そこから菊田のバッティングの幅が広がる。

そのために瞬時の判断が必要になる。これは言葉で伝えてバッターができるようになるものでもない。ストレート待ちでのとっさの甘い変化球打ち、という練習はなかなか難しい。試合の中で、菊田ならば2軍戦で取り組むしかない。

では具体的にはどうすればいいのか?私の専門は打撃ではないが、大切なことだけは言える。打ちにいくことだ。打ちにいかなければいつまでも分からない。打ちにいくことで感覚がわかる。それが、この課題に対して克服できるか、できないかの分岐点になる。

おそらく菊田も追い込まれていれば変化球に手を出すだろうが、追い込まれる前の早いカウント、つまり1-0、2-0、2-1、3-1などのバッティングカウントで、ストレート狙いだとしても、甘い変化球は打ちにいくことが望ましい。これを打席に入るたびに確認して臨むことだ。

そんなことを考えながら帰路についた。ちょうど信号待ちのタイミングでカーナビの画面に阪神-巨人戦での坂本の打席が映っていた。6回、秋山のカウント2-1から真ん中へのフォークを打ちに行き、やや泳いで三塁線へのファウルになった。私の見た印象では、甘いフォークに体勢はわずかに泳いだものの紙一重だった。ミートのポイントがほんの少し前になっていたが、レフト線へのヒットになってもおかしくないほど際どいファウルだった。

坂本ほどのバッターでも、追い込まれる前でもこうして甘い変化球に果敢にバットを出して行く。つまり、バッターというのはストレート狙いという基本はあっても、甘い変化球=絶好球を逃してはならない、ということだ。

菊田にはバットを振ってほしいと強く言いたい。それが凡打でも、ファウルでも、空振りでもいい。実際に振ってみて、はじめて感じるものが重要になる。あっ、と思って手を出さない、それは何回繰り返しても経験にはならない。

ストレート狙いで甘い変化球にバットを出す。泳ぐことはあっても詰まることはない。その泳いだスイングの中に、菊田が身をもって感じ、次のチャンスに生かせるヒントが隠されている。甘い変化球にバットを出そう、これがこの日菊田を見て私が強く言いたいことになる。(日刊スポーツ評論家)