<イースタンリーグ:日本ハム6-5楽天>◇28日◇鎌ケ谷

捕手として現役21年間で通算出場試合1527。引退後はコーチとして4球団で計21年間(うち1年間は編成担当)、合わせて42年間をプロ野球で生きてきた田村藤夫氏(61)が、日本ハム高卒3年目・吉田輝星投手(20=金足農)のストレートに注目。現在の力量を推し量った。

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吉田はこの試合で5回を投げ、7安打4失点。97球を投げ4奪三振4四球という内容だった。初回に25球を投げているが、私の見た位置からは、ほとんどストレートだった。2球だけ、カットボールと判別できないボールがあったが、以前見た吉田の試合でも初回はストレートのみだったことから、この試合も初回はストレート限定だったと感じた。

吉田に対しては、初回はストレート限定で投げるように指示が出ている様子だった。それは、2軍戦とはいえストレート限定で相手打者を圧倒していくことで、吉田にストレートを磨かせようという意図があると聞く。それを踏まえて初回の球威を見ると、最速は146キロ。セーフティーバントを含めて2安打。球速はまずまずだが、バットに当てられており、吉田特有のスピン量のある空振りの取れる球質とは言えなかった。

2回から変化球をまじえたピッチングに移行する。フォークとカットボールで打者の目線を変え、ストレートで追い込んでからフォークで空振り三振を奪うなど、打者3人から2三振。フォークが低めに決まっていた。

3回、4回も変化球を含めたピッチングが続く。3回はスライダー、ツーシームも含めていたが、ストレートの球速は141キロ。初回から5キロも落ちていた。打者7人に3安打2四球で2失点。4回も同様にストレートの球威は伸びず、打者6人に1安打と2四球で1点を失った。。

5回に入ると一転してストレートの球威が戻る。打者4人から2三振。ホームランを喫しているが、この場面では146キロのストレートでストライクを奪った後、ストレートを続け143キロをホームランされている。

一方で、最後の打者をカウント1-2と追い込んでから、147キロのストレートで見逃し三振。外角低めに投げ込んだストレートはいいボールだった。

97球目のストレートは球速といい、コースといい、キレと言い、日本ハムの1軍ローテーション投手に匹敵する内容と見た。

5回で吉田は降板したのだが、私は最後のボールをとてもいいと感じたのだが、同時にこのボールを初回から投げてこそ、吉田はどんどん成長していけるだろうとも感じた。

私は多くの投手とバッテリーを組んできたから、投手特有の考え方も多少は理解ができる。これは想像だが、吉田は5イニング目がラストだとわかっていたため、最後だから飛ばしたのだろう。仮にそうだとしたら、97球目の外角低めのストレートこそ、初回のどこかの段階で投げなくてはいけない。そうであってはじめて、吉田のスピン量のある、空振りの取れるストレートはさらに威力が増していく。

そして、これも私の推測ではあるが、3回から4回にかけてストレートが141キロになったところに、吉田が意図して球速を落としたのなら、それでは強いボールを投げるトレーニングにはならないとも考える。確かに、ローテーション投手は試合の流れを見て、下位打線には明らかに力を抑えたピッチングをすることがある。吉田にもそういう試合の流れを読む力も、ギアを上げたり、下げたりする器用さもあるのだろう。ただ、それは1軍で勝てる投手になってからの話であって、今は2軍で鍛えられている最中だ。3年目の真夏に、見事な147キロのアウトローを投げる能力がある20歳には、どんどん出し惜しみせずに目いっぱい腕を振ってもらいたい。

3年前の甲子園で、金足農の快進撃を支えた吉田はチームの大黒柱だった。吉田の球数は大きな話題となり、その後、球数制限へと高校野球は変革されていく。これがいいことかは、まだ議論の余地があるとは感じているが、ファンの記憶に残る見事な投球をした吉田を、私もはっきり覚えている。

テレビで見た高校3年生の吉田のボールは、スピン量があり、空振りの取れる素晴らしいボールだった。それから3年、今も吉田のピッチングの原点、最大の武器はストレートに変わりはない。空振りが取れるストレートはいつの時代も魅力だ。この魅力あるボールを、吉田は今まで以上の高い意識で真剣に、最大限に磨き上げることを心から望みたい。(日刊スポーツ評論家)