<イースタンリーグ:日本ハム1-6DeNA>◇3日◇鎌ケ谷

捕手で通算出場1527試合、引退後は4球団で計21年間を過ごし、合わせて42年間をプロ野球で生きてきた田村藤夫氏(61)は、日本ハムプロ3年目・吉田輝星(20=金足農)の力感ないピッチングに疑問と不満を強く抱いた。

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9月7日の巨人戦で吉田の生きのいいボールを見ていただけに、この日のピッチングにどこか痛めているのかと心配になった。

初回は18球を投げている。スライダー3球以外はストレートに見えた。解説をするためにスタンドからしっかり集中して見ているにもかかわらず、ストレートに見えた、というあいまいな表現になるのは、これが吉田のストレートなのかと、半信半疑の思いに駆られたからだ。

初回は最速142キロも、138~9キロのボールもあり、とても7日巨人戦での最速148キロのストレートと同じとは思えなかった。カットボールかツーシームと思うが、近くで見ていた各球団の編成担当はストレートという認識だった。その割にはスピード感がないし、全力で投げているのかと、非常に気になった。

7日のピッチングの印象が強く残っているからかもしれない。そこをバロメーターにしているから、物足りなさを感じたのかもしれない。ただし、初回の15球のストレートは、まったくDeNA打線に通用していなかった。初回だけでホームラン2本と二塁打2本。

打たれたから通用していないと指摘しているわけではない。初回のストレート15球で奪ったファウルは1球。空振りは0。これでは、ストレートである程度の質があってこそ、はじめて変化球が生きる吉田の大前提が崩れる。

初回、打者中井はカウント0-2と追い込まれた3球目139キロストレートを、泳ぎ気味のスイングで遊ゴロだった。通常追い込まれた打者はストレート待ちで変化球対応というスイングになる。そこでストレートが来て、タイミングが遅れて泳がされるというのは、いかにストレートが走っていないか、ということになる。この場面を見ていても、私は本当にこれが吉田のストレートなのかと、にわかに信じられない気持ちになった。

今季、2軍でストレートを磨くことをテーマにしてきた吉田は、コーチと話し合い初回はストレート限定で投げることが多かった。状況に応じて初回から変化球を解禁する試合もあったが、ストレートしばりの趣旨は、それでもファウルを打たせる、空振りを奪う球質へのレベルアップのためだった。

春から継続して取り組むことで、7日巨人戦のように7回を2安打という見事な内容もあった。

それだけに、今季最終戦での全力ストレートを期待していた。どこか痛めているのでは思ったほど、球質がいい時と比べると格段に落ちたように見えた。

最終戦で先発し、2イニング。何か違和感などがあり、当初予定よりも短い2イニングになった可能性は残るが、2番手、3番手投手がしっかり準備してマウンドに上がったことを踏まえると、やはりもともと2イニング予定と感じる。

2イニング予定で、体のどこにも違和感がなく、それでこの球質ならば、この1年間の取り組みは何だったのか。ストレートを磨いてきたんだと、その片りんを感じさせてくれる堂々のストレートを見せてもらいたかった。打った、抑えたという打者との勝負の前に、相手打者を圧倒する強い気持ちで、自分のストレートを全力で投げたのかと、問いたくなる球だった。

くどいようだが、7日巨人戦のストレートが本調子で、この日が最悪の球威だったとしても、これでは差がありすぎる。具体的にスピードで判断するならせめて145キロ前後を投げるくらいでなければ、吉田の実力を測るのが難しくなる。その時はたまたま148キロの見事なボールを投げられただけ、と言われかねない。

いい時も、悪い時も、少なくとも相手打者、見ている人には、あからさまに調子が悪いと感じさせては、そもそもの力がないと思われてしまう。

イースタン最終戦だが、もう来季への競争は始まっている。今から勝負なんだということを、吉田にはしっかり考えてほしい。今月中旬からフェニックスリーグが始まる。この日のようなピッチングでは、何も得るものなく今季が終わる。

自分は何を目指して今季取り組んできたのか。それをもう1度しっかり思い起こし、自分の持ち味は何か、1軍で勝てる投手になるために何を身に付けなくてはいけないのかなど、自分の立ち位置をしっかり認識して、数少ない実戦に臨んでほしい。

この試合では、先日引退を表明した斎藤佑樹が鎌ケ谷では最後のマウンドを踏んだ。DeNA乙坂から空振りでツーストライクを奪うと、最後の投球を前にタイムをかけた。どうしたのかと思っていると、目頭を押さえている。スタンドからは拍手、声援が飛んだ。

最後、空振り三振を奪うと、ベンチに引き揚げる際、再び目頭を押さえ涙をぬぐった。特にここ2年は苦しいシーズンだったと思う。いつもは心の揺れを見せず淡々としていただけに、感情あふれる最後の2軍マウンドだった。

この場面を、同じ甲子園のスターとしてドラフト1位の吉田はどう見たのだろう。斎藤には届かなかったところまで、吉田ははい上がって行けるのか。私はそう思いながら、斎藤の最後のマウンド姿を、お疲れさまでしたとの思いを込めて、見守った。(日刊スポーツ評論家)