逆転サヨナラ3ランで勝って、逆転サヨナラ3ランで負ける。明徳義塾が豪快に散った。敗戦の後、馬淵監督に別れのあいさつをした。「クソーッ!」。記者を見ると、本当に悔しそうな顔で言った。「今日、帰るんですか?」と聞けば、「帰るわ! 明日から練習や!」と語気を強めた。初めて取材してから、20年がたつ。当時は甲子園で負ければ、フェリーでさっさと高知に帰っていた。練習するためだ。野球への情熱は全く衰えていない。

 大会前に「勇退」の可能性を聞いていた。昨夏に「50勝したら、辞めなあかん」と発言していた。「松井の5敬遠」は30代だったが、すでに還暦を過ぎ、62歳になった。頭髪はすっかり白い。「ホンマに辞めるんですか?」。質問すると、苦笑した。「辞めるもんか。これからどうやって、飯を食っていくんや。リップサービスよ」。思えば、20年前も同じようなことを言っていた。「そろそろ監督辞めようかな。駅伝部を作りたいんや」。冗談と分かりながら、真顔で話すので、こちらも思わず信じそうになる。

 初戦を突破した後も、口を滑らせていた。「もうそろそろ辞めて、女房と温泉巡りでもしようかな…」。慌てて、こう付け加えた。「まだ辞めんよ。辞めると書くなよ。勝負への執念があるから、やれる。それがなくなったら、辞める」。社会人の阿部企業監督から、辞任と辞表提出をそれぞれ2度経験している。100人を超す野球部員を預かる立場として、常に進退の覚悟が胸にある。「勇退発言」の裏に、そんな思いを感じた。【田口真一郎】

日本航空石川に敗れた明徳義塾・馬淵史郎監督(中央)とナイン(2018年3月30日撮影)
日本航空石川に敗れた明徳義塾・馬淵史郎監督(中央)とナイン(2018年3月30日撮影)