平成、令和と元号をまたいだ2019年。ロッテドラフト1位の大船渡・佐々木朗希投手(18)は高校野球界にとどまらず、日本球界の話題の中心にいた。国内高校生史上最速の163キロ右腕をめぐる「佐々木朗希フィーバー」を、これまで報道されていない新事実を交えながら、全3回でお届けする。

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甲子園をかけた岩手大会決勝のグラウンドに、佐々木の姿はなかった。

敗れた試合後、大船渡・国保陽平監督(32)は「故障を防ぐためです。未来があるので」と大勢の報道陣に囲まれながら、決断の理由を説明した。

学校に抗議の電話が殺到し、車で押しかける人物も出現。正体不明の記者が学校に侵入し、パトカーが出動する騒ぎにもなったという。識者もメディアやSNSで次々とコメントを発信し、賛否両論が飛び交う社会問題にもなった。

試合翌日の日刊スポーツ。1面記事では独自取材をもとに「右ヒジ違和感」を、2面では監督の談話をストレートに伝え、3面では佐々木家の話をまとめさせてもらった。

騒動の中で、すっかり機を逸してしまっていた。3月末の関東遠征、横浜市内での練習試合後。国保監督は、投手起用の判断基準についての興味深い持論を話してくれた。今回、初めて記事にする。

「試合中、調子が良すぎて投手を変えることもあるんです。良すぎると、本人が気付かないうちにいろいろ解放しちゃうから。良すぎてケガにつながることもあるんです」

打たれたから、調子が悪いから、疲れてきたから…ではなく、調子が良すぎるから変える。あまり高校球界に浸透していない考え方、というより、この観点を口に出す指導者はこれまでなかなかいなかった。活動の目的に「勝利」「甲子園」がある以上は。

甲子園を放棄していたわけではない。春以降の数十試合を取材する過程で、「佐々木抜きでも勝つ」を狙いにした“育てる采配”を何度も目にしてきた。ミスをしながらも経験を深め、選手たちは着実に実戦力を高めていた。

一方で、高校教師としての役割もある。

監督はどんな時に怒るのか、佐々木に尋ねたことがある。「練習中に集中してなくて危ないことがあったりした時です」と返ってきた。その翌日、実証される場面に遭遇した。練習試合の会場の、ベンチ前に立てる防護ネットにほころびがあった。「この後ろには絶対に座るなよ。ケガしたら大変だから」と強めの口調で選手たちに指示した。黒い雲もずっと気にしていた。

ケガや事故発生を「本当に心配なんです」と真剣に話していた。技術指導者であり、教育者であり、現場管理者。佐々木の登板回避が少なからず試合に影響したのは事実だろう。ただ、国保監督らが顧問として全方位に注力しながら、野球部員たちを育ててきたのは間違いない。

投手起用も「調子が良すぎるから…」に代表されるように、多角的な視点で検討してきたという。決勝戦後の「3年間朗希を見てきて、これは壊れる可能性が高いのかなと決断できました」の言葉は尊重されるべきで、この判断すら批判されたら、日々誠心誠意、子どもに向き合う指導者たちが報われない。

高校野球って、教育って何だろう-。1人の高校生をめぐっての出来事は、当事者たちが感じる以上のものを世に投げかけた。

年明け、千葉ロッテマリーンズの投手として新たにスタートする。フィーバーの当事者として、ひと足早く「社会」を感じたことだろう。そこで学んだこと1つ1つが、きっと「投手・佐々木朗希」のさらなる素質開花につながるはずだ。【金子真仁】(おわり)