平成、令和と元号をまたいだ2019年。ロッテドラフト1位の大船渡・佐々木朗希投手(18)は高校野球界にとどまらず、日本球界の話題の中心にいた。国内高校生史上最速の163キロ右腕をめぐる「佐々木朗希フィーバー」を、これまで報道されていない新事実を交えながら、全3回でお届けする。

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10月2日、佐々木は正式に国内プロ希望を表明し、同17日のドラフト会議を待つことになった。

記者会見は、質疑応答の時間がかなり限られた。1つだけ質問した。

-この半年間、いろいろな試合で投げてきたと思いますが、一番佐々木君らしい投球ができたのはどの試合ですか

「3月末の作新学院戦です」

即答は、予想通りの答えでもあった。栃木の盟主を相手に、3回1安打6奪三振。日米18球団45人のスカウトを前に、今季初登板ながら156キロをマークした。スライダーも抜群で、この時以上の投球はまだ目撃できていない。

絶好調の時期だったからこそ、実現してほしかった。3月末、大船渡は春休みを利用して5泊6日の関東遠征を行った。土浦一(茨城)など公立校を中心に9試合を戦った。

実は関東遠征中にもう1試合、練習試合の予定が組まれていた。相手は横浜(神奈川)。東の横綱だ。

横浜には佐々木と同じく「高校四天王」と呼ばれる最速153キロ左腕・及川雅貴投手(18=阪神ドラフト3位)がいた。「佐々木朗希VS及川雅貴」がセッティングされていたのだ。

両校に接点はなかった。当時の横浜指導陣が関係者の糸をたどり、昨年末には水面下で話がまとまっていたという。「投げ合いで及川に刺激を与えたい」「佐々木君の対戦で打線にも刺激を与えたい」。そんな指導陣の思いがあった。

1月末、横浜の滑り込みでのセンバツ出場が決定した。練習試合もセンバツと同じ3月末。ほどなくして中止が決まると、大船渡ナインはガックリしたという。横浜ナインはその後「実は3月に大船渡との練習試合が組まれていた」と耳にしたという。

世代を代表する左右投手の投げ合い。実現していたら、どれだけの野球ファンが集まっていただろう。パニックを避けるため、試合日時や会場も含め、極秘裏に準備が進められていた。

そして、どんな投げ合いになっただろうか。佐々木は横浜打線を抑えられたのか。及川に触発され、もしかしたら3月に160キロを出してしまっていたのか。及川の快速球と高速スライダーを大船渡打線が体験していれば、夏の大会の結果は違ったのか-。

幻に終わった投げ合いを、佐々木も残念がったのだろうか。4月5日、U18高校日本代表候補合宿では「キャッチボールしようよ」と自ら及川に声をかけた。紅白戦で163キロを投げた相手も、くしくも横浜の主砲・内海貴斗内野手(18=法大進学予定)だった。

プロで投げ合うことも、きっとあるだろう。ただ「大船渡対横浜」だからこその価値も、そこにはあったはずだ。もう実現しない、幻の一戦への妄想は尽きない。【金子真仁】(つづく)