指揮官・矢野燿大率いる1軍が東京ドームで戦っている頃、藤浪晋太郎はナゴヤ球場で奮投していた。藤浪と言えば思い出す昨季の9月16日。その日、藤浪は横浜スタジアムでプロ入り初の満塁本塁打を放っている。21世紀で投手が放った初のグランドスラムだ。

その試合、投げては藤浪は5回4失点。白星をマークした。当時の指揮官・金本知憲は勝利後にこんな話をしたと記憶する。

「(満塁本塁打は)効きました、というかね。(投球が)5回4失点。だけど満塁ホームランを打ったから、5回無失点だね」

本来、投球と打撃には直接の関係はない。でもチームとしてはそういう考え方もできる。そんなおおらかさが藤浪にもっとも必要なことでは…などとこのコラムで書いた。1年後の今、ファームで投げているのは残念で仕方がない。

阪神にとって東京ドーム最終戦は2-1の接戦で前日の雪辱を果たした。今季、苦しめられた同球場での戦績を5勝8敗で終えた。そんな試合で昨季の藤浪を思い出したのは6回の攻撃中だった。

満塁で6番スタメンの高山俊に回った。高山はファウルなどでフルカウントになった後、内角のボール球を見極め、巨人先発の桜井俊貴から押し出し四球を選んだ。結果的にこれが決勝点となった。

得点力不足に悩む阪神、それを示す、あるデータがある。満塁機でのチーム打率が低いのだ。ここまでで1割8分9厘。トップのDeNAが4割4分5厘と突出しているのはともかく、5球団すべて2割以上はマークしている。1割台はなんとも寂しい。

そんな中、奮起しているのが高山だ。ここまで10打数3安打の打率3割。今季チーム唯一のグランドスラムを5月29日の巨人戦で、しかも「代打サヨナラ」で放っている。振り返れば今季の最高潮とも言える試合だった。

そう見れば、少し照れくさいけれど高山は「猛虎の満塁男」になれる可能性があるのかもしれない。ということは。気が早いけれど来季の4番は…、ということになると思っている。

そして、やはり藤浪だ。メッセンジャーが引退した後、その右腕にかかる期待はどうしても大きくなる。アマ球界のスターだった藤浪が投げて、高山が打って勝てば。阪神は強く、そして見ていて楽しいチームになるのだ。(敬称略)

ウエスタン・リーグ中日対阪神 先発した阪神藤浪
ウエスタン・リーグ中日対阪神 先発した阪神藤浪