えらいこっちゃで。ホンマに。関西弁のニュアンスが理解していただける前提で言えば、そういうことだ。詳細は虎番記者の記事で読んでほしいが新型コロナウイルスの問題でバリバリの戦力である10選手が登録抹消され、9選手が急きょ2軍から登録された。30年近くこの業界に接しているが最初に聞いたときは本当の話なのかと思った。

阪神は間違いなくピンチだろう。そして衝撃が走ったその日は負けた。それでも敗戦濃厚だった9回、緊急招集組の北條史也が安打を放ったとき、昨年のことを思い出していた。

3位に終わったとはいえクライマックスシリーズでDeNAを倒し、巨人との最終決戦に臨んだ昨季の阪神。就任1年目だった指揮官・矢野燿大はあるとき、ミーティングでこんな話をしたときがあった。

「ピンチを迎えたときにどう思う? ピンチはピンチやけど逆に考えればそこを乗り越えれば喜べる場面ということやろ? 自分らも喜べるし、ファンも喜んでくれる。つまりピンチこそチャンスなんや。そう思おうや」

指導者の道を歩むことを決めたとき、矢野はさまざまな書物に接して、そういう考え方を学んだという。「ピンチはチャンス」とはよく言われるが、あらためてその思考を選手に伝えようとしたのだろう。

その後のある試合でピンチを迎えたときのことだ。静まるベンチの隅で「チャンス、チャンス」と声を出していたのが北條だったという。矢野は「北條はベンチでいつも声を出してくれる」と評価していた。

それでもプロは実力の世界だ。ムードメーカーでも結果が出なければ1軍にはいられない。今季は8月24日に登録抹消され、1カ月以上もファーム暮らしが続いていた。

同学年・木浪聖也の成長があり、小幡竜平という若手も出てきた。ひょっとして今季はもう出番がないのでは。そんなことさえ思っていた。しかしまさかの事態で出番が来た。その最初の試合でとりあえず北條は結果を出したのだ。

チームにとっては大ピンチだが選手個々人にとってはチャンスかもしれない。さらにそれが勝利に結びつけば-。「ピンチはチャンス」とはそういうことだろう。高山俊、藤浪晋太郎も同じだと思う。甘くはない世界。それでも逆境に苦しむ男たちの力で流れを変えてみせてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

ヤクルト対阪神 試合前、ベンチ内で円陣を組み、声出しをする北條(手前中央)(撮影・狩俣裕三)
ヤクルト対阪神 試合前、ベンチ内で円陣を組み、声出しをする北條(手前中央)(撮影・狩俣裕三)