「落ち込んでたらあかんで」と言いたくなった。2番手で登板、負け投手になった藤浪晋太郎だ。ベンチに下がると「やってしまった」と言わんばかりに唇をかんで落胆した様子をありありと見せた。

当然かもしれない。走者を出しながら得点できない苦しい展開を大物ルーキー佐藤輝明の同点弾で追いついた。さあ、ここからという7回の4失点降板は悔しいはず。落ち込むのも分かる。虎党から厳しい声も出るだろう。

しかしプロはどこまでいっても勝ったり負けたり、だ。やられたらやり返す。その気持ちでしか生きていけない。落ち込むのではなく、悔しがり、屈辱を次につなげてほしいのだ。

ポイントは1死一、三塁で代打・福留孝介を打席に迎えた場面だったと思う。言うまでもなく昨年までともにプレーした大先輩だ。そんな存在と土壇場での対決。そこで藤浪と交わした古い会話を思い出した。

7年前、14年12月のことだ。シーズンオフに行われた球団イベントの席で藤浪に聞いたのは新井貴浩についてだった。そのとき新井は阪神を退団、古巣の広島に復帰することが決まっていた。当然、翌シーズンは新井と対戦する可能性もある。それを聞いた。

「インコースを攻めていきたい。今年までチームメートだったことは一切、関係ありません。インハイを攻めていきたいと書いておいてください。対戦するのは楽しみです」

藤浪はそう話した。新人年から2年連続で2桁勝利をマークしたこの頃は、ある意味、怖いもの知らずだったかもしれない。若かったと言えばそれまでだが、この考えは間違っていない。この世界で生きる人間にとっての基本だ。

過去にそんな話を聞いていただけに福留との対戦に注目した。1球目、カットボールで空振りを取った。2ボール1ストライクになってからの4球目。内角にズバッとストレートが来た。「おっ!」と思ったが判定はボール。藤浪も悔しそうだった。5球目も内角低めに外れて四球。これが響いた。1イニング3四球は、やはり、苦しい。

それでも真正面から福留に向かっていった姿勢は買える。これがあれば、まだ戦えるはず。どんな形であれ開幕投手・藤浪の復活は優勝へ必要不可欠なピースだと思う。いっちょう、散髪でもして気合を入れ直してみるか。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

中日対阪神 7回裏中日2死満塁、藤浪は堂上に右越え適時二塁打を打たれたところで石井大智と交代しマウンドを降りる(撮影・加藤哉)
中日対阪神 7回裏中日2死満塁、藤浪は堂上に右越え適時二塁打を打たれたところで石井大智と交代しマウンドを降りる(撮影・加藤哉)
中日対阪神 7回裏中日2死満塁、ビシエドに押し出し四球を与え天を仰ぐ藤浪(撮影・森本幸一)
中日対阪神 7回裏中日2死満塁、ビシエドに押し出し四球を与え天を仰ぐ藤浪(撮影・森本幸一)