ひょっとして「名将」に勝つときが来たのか。そんな感慨に包まれている。この勝利で今季の巨人戦22試合は11勝9敗2分けと2つ勝ち越し。過去2年、苦杯を喫した東京ドームでも5勝3敗1分けと同じく2試合、勝ち越した。さらに、もうひとつ特筆すべきことがある。

「1点差勝利」だ。今季の「伝統の一戦」は見応えがある。ここ数年と違って阪神が頑張っているからだが、それはスコアにも表れている。22試合のうち、1点差の最少点差で決着した試合が7試合もある。

この試合前までその勝敗は3勝3敗のタイだった。阪神が勝ったのは5月14日(東京ドーム)同16日(同)、そして9月4日(甲子園)の3試合。巨人が取ったのは4月21日(東京ドーム)6月20日(甲子園)7月11日(同)だ。

そしてこの日だ。阪神は中盤まで優勢だったが巨人の粘りにあってセットアッパー岩崎優が2失点。それでも逃げ切った。これで1点差勝利は4勝目。ここでも勝ち越したことになる。

「1点差負けは選手の責任ではなく采配を振る監督の責任。来季はそれを肝に銘じてやってくれ」。これは広島3連覇監督の緒方孝市(日刊スポーツ評論家)が監督1年目を終えたオフ、球団本部長・鈴木清明に指摘されたことだ。それが3連覇の礎になったと緒方が述懐する。

宿命の巨人戦。名将・原辰徳を向こうに回し、指揮官・矢野燿大は踏ん張っている。「勝利の方程式」を中心にしぶとい野球で過去2年の屈辱を晴らそうと懸命の戦いだ。「大きなことは言えないけれど…。最後に優勝します」。勝利監督インタビューでそうきっぱりと口にできたのは手応えがあるからだろう。

だが油断はできない。まったくもってできない。この試合にしてもそうだ。6回以降の4イニングでは中野拓夢が安打で出ただけ。いわゆる「先制・中押し・ダメ押し」のダメ押しはできなかった。それが岩崎の失点につながったと言えなくもない。

ヤクルトはもちろん、この試合で追いかけてくる巨人に王者の執念を感じた。前日は「3戦目に勝って巨人に引導を渡せ」と書いたけれど、正直、そんな感じでもない。プロ野球ファンにはこれ以上なく面白いシーズンだろう。それはまだ続く。虎党が歓喜に包まれる瞬間まで気を抜ける瞬間はない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)