明らかにチームが締まってきた。集中している。それが流れの良さとミックスされ、負ける気がしない。今の状態だろう。最後の最後まで優勝を争う阪神と12勝12敗1分けタイの戦績を残し踏ん張った広島だがこの試合は終盤にミスが出た。プロは言いわけできないが両軍の状況を考えれば無理もないかもしれない。

対照的に守備の課題を言われ続ける阪神はこれで6試合、無失策である。最後に失策を記録したのは甲子園で広島に負けた17日。マルテに出たのが最後だ。その無失策6試合で阪神は負けていない。締まっているし、集中している。

攻撃でそれを感じたのは2回だ。好投手・九里亜蓮から先制点がほしいところで2試合続けて5番スタメンの木浪聖也が左前打で出塁。次打者ロハスの中前打で一気に三塁を陥れたのだが、ここで頭から飛び込むヘッドスライディングを見せた。そこまでギリギリでもなかったように見えたが集中し、気合が入っている証明だろう。

指揮官・矢野燿大は現役時代に悔いがある。11年前、9月30日の引退試合。ゴロを打って一塁へ“へッスラ”をやろうと考えていたという。「最後は甲子園の土でユニホームを真っ黒にしたい」。結局、実現しなかったがそう考えていたと自著「考える虎」(ベースボールマガジン社)で明かしている。

へッスラは負傷の危険を伴うし、ベースへの到達時間が遅れることも多いので現代野球では否定されることが多い。それでも必死さ、懸命さを示す“昭和スタイル”を感じさせるプレーではある。選手をもり立てる今風の指揮官を目指す矢野も本来はそんなメンタルの持ち主だ。

状況、意味合いは違うけれど、この日、木浪が見せたヘッスラに無我夢中さを感じた。遊撃の定位置をルーキー中野拓夢に奪われ、今季のスタメンはわずか26試合目。そんな男が同期入団・近本光司の負傷に伴って「5番」で2試合目のスタメンのプレーだ。それは必死になるだろう。

「眠れないことが多い」。そう言った矢野は当然、ナインも、そして虎党も「もう、あかん。いや、まだだ」と前を向いてきたことだろう。阪神関係者は誰も経験したことのないシーズンだ。残るは26日1試合のみ。結果は神様しか知らないけれどハッキリしているのは「ホンマ今年はおもろい」ということだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

勝利を祝う阪神ナイン(撮影・加藤孝規)
勝利を祝う阪神ナイン(撮影・加藤孝規)