ツキがない。そんな感じだ。野球に限らず物事は戦略、作戦、もちろん実力に裏打ちされた上でそういう要素が意味を持つのだが勝負事を左右するのに重要な最後のピースは「運」「ツキ」といったもののような気もする。負けた阪神にはそれがなかった。

顕著だったのは7回だろう。ようやく広島先発の森下暢仁を攻略し、同点に追いついた。なおも1死一、三塁だ。それまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように盛り上がる甲子園。さあ、逆転だ。そこで放った楠本泰史の強いゴロは一塁モンテロの真ん前。すぐにベースを踏まれ「ゴロゴー」で飛び出していた三走・前川右京もなすすべなく刺され、併殺に。

「何というか。ついてないですね。あそこはゴロゴーだし、しょうがない。飛んだところがね」。総合コーチ・藤本敦士もそう言うしかない。もう少し打球がどちらかにそれていたりすれば…。

そんなことを言っても仕方がないが岩崎優が打たれて勝ち越された9回も近本光司から中野拓夢に渡ってのバックホームが、もう少し本塁寄りなら-。「野球の神様」は阪神に味方しなかったのである。

そんな中「悪夢のカード」というべき試合で働いた男がいた。木浪聖也だ。「あのとき」も甲子園の広島戦だった。4月19日の5回戦で1試合3失策を記録し、翌日から名前がスタメンから消えたのである。前日15日の横浜スタジアムで“定位置”に戻ってきたが甲子園ではあの試合以来だ。

試合前、木浪と少しだけ話した。「あんなことがあると何かポロッとやってしまいそうな気はしないものなのか」。プロに対して失礼なのは重々、承知の上でこう聞いたのである。

「なんで、そんなマイナスなことを考えるんですか。大丈夫ですよ」。木浪はそう笑い飛ばした。そう忘れていたのである。木浪は物事をどこまでも前向きに考える男だった。

ツキがないのは仕方がない。後ろ向きに受け取っても事態は変わらないのだ。木浪はこの試合、失策しなかったし、7回には一時同点とする適時打も放った。勝ち試合ならなおよかったが、それも1つの流れだろう。広島との攻防戦に破れ、首位から陥落したのは事実。だが言うまでもなくシーズンは、まだ、これから。イライラせず、次の試合に向かっていくところから始まるのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対広島 7回裏阪神1死二、三塁、代打楠本泰史は一塁併殺打に倒れる(撮影・宮崎幸一)
阪神対広島 7回裏阪神1死二、三塁、代打楠本泰史は一塁併殺打に倒れる(撮影・宮崎幸一)
阪神対広島 7回裏阪神1死二、三塁、代打楠本の一塁ゴロで三本間で併殺となる前川。捕手は坂倉(撮影・宮崎幸一)
阪神対広島 7回裏阪神1死二、三塁、代打楠本の一塁ゴロで三本間で併殺となる前川。捕手は坂倉(撮影・宮崎幸一)
阪神対広島 7回裏阪神1死二、三塁、木浪は中前に同点適時打を放ちガッツポーズをする(撮影・藤尾明華)
阪神対広島 7回裏阪神1死二、三塁、木浪は中前に同点適時打を放ちガッツポーズをする(撮影・藤尾明華)