5年ぶり出場の神村学園(鹿児島)が、3-2のサヨナラ勝ちで初戦の京都成章を下し、16強入りした。同点の9回1死二、三塁、中里琉星投手(2年)が三塁内野安打で決めた。8回途中から救援も9回2死に同点ソロ本塁打を浴びていた中里が、最後は自分のバットで勝利をつかんだ。

 無の境地だった。2-2の9回1死二、三塁。神村学園の9番中里は落ち着いていた。5、6回にブルペンで肩をつくった後、ベンチで座禅を組んで精神統一。雑念を消し、打席に入った。4万3000大観衆の歓声も消えていく…。

 「何も考えず無で打った」。5球目、変化球を強振すると一塁を駆け抜けた。三塁内野安打。サヨナラだ。球場がどっと沸き、勝利に気づいた。「素直にうれしい。おいしいとこで決めたい気持ちがあった」。甲子園初打席の劇的打に胸を張った。

 天国と地獄の心境だった。8回2死一、二塁、8番打者のカウント3-1と緊迫する場面でマウンドに上がった。先発の青柳から「あとは頼むぞ」と託され、何とか無失点。だが9回に暗転した。勝利まであと1人から高め直球を本塁打にされて同点。動揺しかけた心を落ち着け「集中してしっかり抑えようと」と、切り替えて9回裏の打席につなげた。

 メンタル強化の成果だ。昨秋の鹿児島大会準決勝で鹿児島実に競り負け、小田大介監督(34)は危機感を募らせた。10月、引き締めるため「赤信号」の意味で全員の帽子を黒から赤色に変え練習させた。学校近くの鎮国寺で座禅も組んだ。以来、練習前に1~2分の座禅を組み、各自試合中にも行う。この日も試合前に行い、気持ちを静めた。

 次は17日、明豊(大分)との九州対決。「3年生と1試合でも多く試合をして、最後は笑って終わりたい」。聖地の女神を味方につけ、勢いよく夏が始まった。【菊川光一】

 ◆中里琉星(なかざと・りゅうせい)2000年(平12)8月1日生まれ、鹿児島県出身。小3でソフトボールを始め、中学は薩摩隼人ボーイズ。高校では1年秋から投手でベンチ入り。今夏の県大会は5試合、16イニングで無失点。打撃は7打数無安打。175センチ、73キロ。右投げ右打ち。