金足農(秋田)が今日20日、34年ぶりの準決勝で日大三(西東京)と対戦する。吉田輝星投手の快投と、県立の農業高校としてハツラツとプレーする姿に、高校野球ファンが魅了されている。34年前の84年(昭59)に、初出場でベスト4に進出した際の担当記者が、酷似するカナノウ旋風を振り返った。

 準々決勝で2ランスクイズにより逆転サヨナラ負けした近江(滋賀)の多賀監督は「吉田君を中心とした金足農の気迫がすごかった。相手を応援する球場の雰囲気にものみ込まれた」と話した。34年前の夏も同じだった。

 金足農は84年の第66回大会に初出場した。その年のセンバツに初出場したが、夏は初陣。それが1回戦で、それまで春夏合わせて6回優勝の広島商を6-3で撃破すると、破竹の勢いで勝ち上がった。シュートとスライダーを駆使する水沢博文投手がけん引した。今回、奪三振ショーで勝利に貢献する吉田と同様の構図だった。県立の、無名に近い農業高校の快進撃は日増しに注目された。

 当時の嶋崎久美監督(70)は農業高校らしく「うちは『実るほど頭(こうべ)をたれる稲穂かな』です。(強いと)錯覚してはいけない。常に謙虚に挑戦者として臨みます」と話した。

 準決勝はPL学園(大阪)。清原和博、桑田真澄(ともに2年)のKKコンビを擁し、夏連覇を目指す優勝候補筆頭だった。当時の主将・長谷川寿捕手は「どうせ負けるでしょうから、思いっきりやります。あっちはエリート。こっちは雑草軍団だし」と、割り切って試合に臨んだ。

 ナインは打席で「打つぞ!」と言わんばかりにバットを桑田に向けた。後に桑田は「すごい気迫を込めて、僕に、PLに向かってきた。気持ちで負けたらやられるという気がした」と振り返っている。8回表まで2-1でリードした。甲子園は「PLが負けるのか」という異様な雰囲気に包まれた。大歓声は金足農に向けられた。

 試合は8回裏の桑田の逆転2ランで敗れた。第1回大会の秋田中(現秋田高)以来となる県勢69年ぶりの決勝進出はならなかった。選手は応援席だけでなく、バックネット裏の観客にも整列し一礼した。異例の光景に、拍手が起こった。試合後、嶋崎監督は「選手たちは素晴らしい思い出を、あと1日(決勝)残した。その1日を、社会人あるいは大学で取り戻すよう頑張ってほしい」と願った。

 今日、金足農は34年前に置いてきた、その「1日」をも取り戻そうと、準決勝に臨む。その先には、第1回大会以来となる秋田県勢103年ぶり(戦争での中止3年を含む)の決勝進出。そして103年間、東北勢の悲願である大旗の白河越えが待っている。【元東北支社記者・笹森文彦】